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「――と言うのが、私個人としての、この部分の歴史背景だ」
「はえぇ……すごい面白かったです」
どうやら話は終わったらしい。私は全く付いていけなかったが、フェリスは感嘆の声を上げ、マーガレットは満足げな雰囲気を発しているようだった。
「えぇ、わたくしの婚約者は凄いのよ。ここまで歴史の裏を色々考察できるのは、デュオローグ様しかいらっしゃらないと思いますもの」
「……マーガレットも、やろうと思えば出来るだろうが」
照れくさそうに頭をかくデュオローグ。満更でもなさそう。
「わたくしはデュオローグ様ほど深くまで考えられませんもの。こう言う事実があった、と言うのを記憶しているだけで、当時の人々の多様な情勢と心理背景を踏まえて歴史をきちんと考察しなおす、と言う芸当は、わたくしには出来ません。また、裏にあるような記載のない歴史についても同様ですので、また色々お聞かせいただけませんか? デュオローグ様」
「……まぁ、時間があればな」
「えぇ、楽しみにしていますね」
「あの、でしたらこれについてもお伺いして良いですか?」
「あぁ、これは――」
デュオローグの歴史談義は続いた。
彼が歴史好き、と言うのはゲーム上の設定であった。そのため、まずはマーガレットからデュオローグに不明点を質問する形で、歴史に付いて尋ねてもらっていた。
「……こんなもの、マーガレットなら私に聞かなくとも分かっているだろう」
「一つの答えは見えてはおりますが、歴史は様々な要因が絡みます。是非ともデュオローグ様としての見解を、聞いてみたいのです」
「まぁ、参考になるか分からないが、それでも良いなら……」
彼の知識は相当深い、と言う設定になっている。そのためゲームの中で、隠しボスである黒の女神の存在に気付くのは、歴史的背景を深く読み解いた彼なのだ。彼が歴史について読みとき、隠し攻略キャラが更に協力をする事で、通常プレイでは出てこない、本作の本当の敵である黒の女神を打倒する、と言うシーンが生まれるのだ。
しかし……もう少し積極的になっても良いのでは? マーガレットはこんなに頑張っていると言うのに。身体がないのであれだが、心の中でため息をついた。
『……クロサ……ナイ……オマエカ』
デュオローグの肩越しに、何度も目にしている、しずくの様な黒い影が姿を現していた。それを見るたびに、私は何か、得体のしれない恐怖を感じる。
私はマーガレットと意識を連動させた。
『マーガレット……』
『どうしたの? チヒロ』
『いま、黒い影が見えてない?』
『……見えないわ。あなたには、見えているのかしら?』
『うん。分かった。ありがとう』
何度かマーガレットに聞いてみたものの、今もそうだがあの黒いしずくは、彼女に見えるものではないらしい。
ただ、明らかに良くないものであろうことは確か。気付けば黒いしずくは姿を消していて、楽しげに会話を繰り広げる三人の声が、耳に届くのだった。
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