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 首元に巻かれているデュオローグの腕に触れる。柔らかな体温が体の芯を温めていく気がした。 「……私もだ。こうしていると、君も一人の人間だったのだな、と言うのを改めて感じる」 「……どう言う事でしょうか?」  不意に回されたデュオローグの手が、マーガレットの冷たくなった手を掴む。 「私はマーガレット、君があまりにも眩しかったのだ。実は君があの日助けた女の子である、と言う事は気付いていた。だが、その時から既に君は才女として有名だった。一方わたしは凡庸な王子。君が婚約者になってからというもの、常に君と比較されるようになり、私は自信を粉々に砕かれていた」  別に凡庸ではないと思うけど……。とは言え、マーガレットはラスボスって言う事もあって、設定盛り盛りって言うのは分からなくはない。 「そう、だったのですか」 「だから君と出会ったあの日、私は運命を呪った。あの時は私が子供だったこともあり、そもそも抜け出してあんな路地裏にいた事がバレれば、きつい仕置きがまっているであろう事は明白だったからな」 「……」 「それだけではない。時を過ごすうちに、君は更に力を付け、比較される私は自分の無力さを嘆く事しか出来なかった。いつしか君に苦手意識を持つようになり、色々と理由を付け、君に会わない様にしていたのだ」 「それって……では、何カ月も会えなかったのは、忙しかったからではなく……」 「そうだ。君と会って、自分の無力さを思い知らされるのが嫌だったのだ。だが、そんな君に弓の腕を、歴史の知識を認めてもらって、私にも誇れるところがあるのだ、と言うのを教えてくれたのも、君だった」  視線が重なる。デュオローグ様の、推しの金の瞳が私を見つめている。いや、マーガレットを見てるのは分かるんだけどこっちをガン見! これはもう悶えるしかないぃぃ! 「デュオローグ様、わたくしにとっては、あなたこそ常にわたくしの中で一番でした。あなたの隣にふさわしい女性になりたくて、色々努力をしました。もしわたくしが才女であった、と言うのであれば、それは間違いなくデュオローグ様のおかげです。そして、もしあなたがわたくしの事を今も才女だと思っているのであれば、その才女たるわたくしから、あなたへお伝えしたいことがあります」  ちょちょちょ! マーガレット! 一人で突っ走らないでよ! って待って待って! なんかちょっとずつ唇が! 推しの唇が近づいてる気がするんだけど! 「デュオローグ様、いえ、デュオ様は、わたくしの知りうる中で、最も素敵な男性でございます。わたくしは世間からは才女と言われているようですが、わたくし自身はデュオ様と言う太陽がなければ輝くことのできない月でございます。可能でありましたら、わたくしの隣で、いえ、わたくしを隣に置いて頂き、その輝きの一部を、是非ともわたくしに向けていただきたく思います」 「マーガレット、いや、かつてはガレット、と呼んだこともあったな」 「はい」 「ガレット、私もお前に言っておこう。改めて、婚約者として、私を支えて欲しいと」 「……はい! よろしくおねがいいたします!」  顔が、顔が迫る!  はうぅぅ! あ、待ってこれデュオ様のキスあぁぁぁぁ! 『ちょっとチヒロうるさいわよ!』  仕方ないでしょ! だって推しとのキスなんて実際に経験出来ないもん! 『……全く。しょうがないわね。チヒロは特別よ。わたくしをここまで連れてきてくれたのは、間違いなくチヒロだしね』  推しとのキスの感覚を味わいながらも、マーガレットの呆れたような心の声も聞こえて、とは言えそんな彼女の雰囲気は、恐らく今までで一番柔らかいものに感じた。だが。 『……クロサガ……オマエカ!』  キスの感覚も突如途絶え、視界を覆う黒。全身を削られるような痛み。  続けて耳に届いたのは、マーガレットの叫び。 『チヒロ!』  視界が暗転。再び目を開ければ、こちらをみつめるマーガレットとデュオローグの姿が見えた。  体が、体が、痛い!
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