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「なんですのあれは!?」 『あなたの体! もらったわ!』  体中を痛みが襲ってくる。ぼやける意識。薄れゆく景色。何とか思たい瞼を開ければ、先ほどまで同一化していたはずのブロンド髪の少女と、そこに寄り添うパンツ一枚の王子の姿があった。  全身を襲う痛みに視線をずらせば、黒、黒、黒。 「ふふふ。ちょっと予定は狂ったけれど、この体はこの体で悪くないわね」  自分が発した声ではない。だが、音の出どころは間違いなく自分。  今もジクジクと痛む全身。私、どうなってるの。 「まさか……黒の女神か!」 「デュオ様、黒の女神とは……」 「歴史を紐解いていけば、黒の魔女の元は、黒の女神の怨念らしい。世界は一対の男女の神によって作られたが、男神は別世界の女の神と子をなし、そこに移り住んだそうだ。そしてこの世界に残されたのは、男神と悲劇の別れを告げたとされる黒の女神と呼ばれる存在のみ」 「そうよ、よく知っているわね。そしてあなたたちが聖女の力と呼んでいるそれは、あの憎き浮気男の力なのよ。あいつは事もあろうに、私があいつを追いかけていけないよう、この世界に私の力を抑えるための楔を打ち込んでいったの。本当にあいつが憎いわ。私がどれだけあいつを愛していたと思って。私がどれだけあいつの為に尽くしたと思って!」  激昂する黒の女神。侵食する黒の意識の中、一筋の光が差し込んだ。  見えた景色は、ただ広大に広がる大陸と山、それを見下ろす自身と、見知らぬ天使の様な装いの男性の姿。  彼の視線がこちらへと向く。 『なぁ、もう、良いんじゃないか?』 『ダメよ! あなたが自分で言ったんじゃない! この世界は良い世界にしたいんだって! こんなんじゃ足りないわ!』 『いや、しかし……』 『あなたのために言ってるのにどうしてわからないの? また同じ過ちを繰り返すつもりなの?』 『……そういうわけではないが』 『じゃあつべこべ言わずやるの。私も協力するから』  ……これは、黒の女神の記憶なのだろうか。  彼女は、彼女が浮気男と言った、彼の表情を、どう見たのだろうか。  逃げ場を失ったような、彼の表情を。それはまるで、かつてのデュオローグが、マーガレットを見ている姿のようで。  そんな私の感傷も、すぐに痛みと、自身の意思とは無関係に発せられる言葉によって、現実に引き戻された。 「でもあなた達が、いえ、あの浮気男がフェリスと言うあの女に力を渡したことで、私の封印も解けたって言うわけ。感謝しているわ。とは言え、本来はそちらのマーガレットを依代にする予定だったんだけれど」 「何だと!?」 「そうよ王子様。彼女があなたに対して、いえ、世界に対して持っていた絶望を糧に、私は世界を消滅させる予定だったのに。予定は狂ったけれど、今の依代も決して悪くないわ。むしろ良かったわ。長期にわたってじわじわと侵食してきたおかげで、前回よりも間違いなく本来のパワーを感じているし」  体の黒が増殖していく。ふとデュオローグが弓で兎を仕留める光景が見え、再び侵食する黒。 「チヒロに何をするのです! 離しなさい!」 「ガレット、チヒロとは?」 「デュオ様、委細については改めてお話を致しますが、チヒロはわたくしにとってとても大事な方なのです。わたくしの運命を変えてくれた方。そして、大事な友人」  マーガレット……あうっ! 痛い、痛い!  かつて鏡で見た、マーガレットの姿であり、今は自分の姿でもあった記憶に、黒が侵食する。  侵食した黒は、髪を黒く染め、顔に迫ろうとしている。
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