3/4

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「……なるほど。チヒロの魂をずっと拘束していたのも、あなたなのね」 「だったら何? そもそもあなたに記憶は無いでしょうけど、その女はかつて私の邪魔をしたのよ。邪魔だから消す、それだけの事」 「そうはさせない。チヒロはわたくしにとって大事な人なの。彼女を害する、と言うのであれば、わたくしが相手になるわ」  黒の侵食は止められない。自分の顔が消えて、あ、れ……。マー、あれ? 名前が……そもそも、私の名前は……。  そんな時、名前が出てこなくなった少女の背後の壁が砕け散り、少女と男子が姿を現した。 「マーガレット。一人で戦わないでください」 「フェリス?」 「すみません、遅くなって。私も聖女の力の解放が先ほど終わりました。とは言え私一人ではあの女神に勝てるとは思えません。すみませんが、力を貸してください」 「そうだガレット。一人で無理をするものじゃない。お前自身が言っていただろう。婚約者である私を助けてくれと」 「デュオ……」 「俺はお前の婚約者なのだ。いや、王子としての責務もあるが、それ以上に、お前には俺と共にこれからも歩んでほしい。であれば、お前の敵であるあいつは俺の敵でもある。だから共に倒すぞ。ガレット」 「ありがとう。デュオ」 「イーロン! 気を付けて!」 「フェリも無理しちゃだめだよ。これからも一緒に歩いていく予定なんだから」  ……何故か名前も思い出せない彼女たちだが、その親密そうな雰囲気に、大事な何かを引き出されるような、気がした。 「ったく腹立つわね。私が一人身だと思って! やりなさい!」  影から伸びる靄、靄が分裂し、黒い豪雨となって、名前が思い出せない彼女たちへと降り注ぐ。いや、私がそうしている。意図したわけでもないが、体が勝手に動く、と言う感じ。 「ガレット!」 「フェリ!」  男子たちの叫び。少女達を抱きしめたのを最後に、黒い豪雨に呑まれ、積み重なった黒いドームの中に、その姿を消してしまう。 「あら、思ったよりあっけなかったわね。まぁ良いわ、これなら……」 「何がこれから、ですか?」  黒いドームの中心部が輝き、爆散。真っ白な光に包まれた黒の豪雨は、蒸発するかの様に消え去り、現れたのは男女の四人。 「チヒロ! あなたのこと、絶対助けるから!」  その中の一人、ブロンド髪の少女がこちらへ向けて叫んだが。  チヒロ……? それは誰の事? あなたは、一体何なの? 「もう遅いわ。彼女の記憶にあなたの存在は既に無い。いくら叫んでも何も変わらないわよ」 「そんな事はありませんわ! チヒロは、チヒロは、わたくしの運命を変えてくれました! 聞こえているんでしょう! チヒロ! 今度はあなたが、あなた自身の手で! 自分の運命を切り開いて!」 「マーガレット!」 「フェリス! お願いです! 力を貸して! わたくしの大事な人が、今黒の女神に捉われているの!」 「うん。勿論。これまでずっと私の事を助けてくれたマーガレットに、今度は私がお返しをする番だから。黒の女神。覚悟しなさい!」 「私も忘れてもらっては困るな。ガレット」 「そうだよフェリ。僕だっているんだから」  再びこちらをじっと見据える男女四人。本来ありえなかったはずの……ありえなかった? いや、なんでそんな事が分かるの……。どうなって、私は、私は一体、何が……。  でも、この感覚は、決して嫌なものじゃない。 「ちょっ! なんなの! どうなってるのよこれは!」  戸惑いと戸惑いと。記憶に無いのに、何故か心温まる涙が流れそうな感覚と、動かしたいのに自分の思うように動かない自身の体への違和感。 「これは……どうなっているんだ?」 「チヒロ! 今助けてあげる! フェリス! 力を貸して!」 「分かったマーガレット!」  私をチヒロと呼ぶブロンド髪の少女と、茶髪の少女が手を合わせ、額を重ねる。白い眩い輝きが、二人の体を包み込む。 「な、まちなさ……何で体が動かないの! どうして!」 「ガレット、頼んだぞ」 「フェリ、周りは任せて」  彼女らを守るべく、剣を構える二人の男子。  私は上がろうとする腕を、前に進もうとする足を懸命に止める。何故か、それをしなければいけない気がしたのだ。 「「滅せよ! 黒の女神!」」  二人の体から発せられた、眩い輝きが周囲を包み込んだ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加