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「はぁ……また課長に怒られた……」
気分は憂鬱である。
長い長い夢を見ていたようだ。記憶の中では随分と長い気がしたが、実際はほとんど日が経っていなかった。
古い記憶となってあやふやだったが、私が徹夜で乙女ゲームを攻略していたはずの日から一日が経とうか、と言う日に、私は目を覚ました。まだ黒の女神と戦っていたはずで、いつどうやってクリアしたのかは全く分からないが、ゲーム画面にはエンドロールが流れていた。だが、エンドロールの後、本来あるはずのないクエスチョンルートのムービーが、保存されていた。
何だろうと見てみたものの、ただ長いノイズが続くだけの意味不明なムービー。そして、記憶の中で見ていなかった隠しキャラを含めたハーレム攻略ルートについても攻略済みとなっていた。そちらのムービーは至って正常。フェリスが全員と結ばれる、最後のルート。そして、私のゲームもそこで完了を迎えた。
「なんだったんだろうな……」
気持ちを切り替えるため、スイーツを買いに、駅へ向かうルートから少し外れたところを歩いていた時の事。
「あれは」
私の部署の先輩。噂ではバツイチだが、かなりきつい性格で有名。顔はイケメンなのにねー。と言う話を、同僚としたことも一度や二度ではない。きっとその性格故に離婚したのだろうと。
確かに気になる顔ではあるが、とは言え話したこともないのだ。
『全く、わたくしにあれだけけしかけておいて、自分は何もしないつもりなのかしら?』
「えっ?」
頭の中に響く声。だが、聞き馴染みのある声のような気がした。
『チヒロ、久しぶりね』
「まさか……マーガレット?」
『そうよ。全く。いきなりいなくなってびっくりしたわ』
「どうやって探したの? え? と言うかあなた、ゲームの世界の住人じゃ?」
『私があなたを呼び寄せたらしい時の痕跡を逆に辿ったの。そしたらようやくあなたが見つかって、今こうやって話しかけているって言う訳』
「……随分頑張ったんだね」
『そんな事より、彼の事、気になってるんでしょう? 今度はわたくしが協力してあげるわ』
随分と頼もしいような気もするが……そもそも助けたの私じゃん。
マーガレットの協力がどこまで役に立つか、怪しい気がした。
『随分失礼ね。あなたの知識は”げーむ”とやらから来たんでしょ? だったらリアルの経験は私の方が間違いなく高いわ』
ホントにぃ? 疑わしすぎる。
『今彼が思っている事は……「食べるならプレーンの方が安いが、限定のちょこばなな? の方が気になる」って言ってますわよ』
えっ、何それちょっと。心読めるってチート?
『さぁ、どうするの? わたくしならここで打つ手は、ねぇ、せっかくだし限定のチョコバナナ、一緒に買ってみない? と言うのはどうかしら?』
……それ、ほぼほぼ初対面の人がやるには怪しすぎない?
とは言え、何となくやってみてもいいか、と思ったのも事実だった。
「じゃあ、その通りにやってみるけど……失敗したら責任とってくれるの?」
『それはチヒロの頑張り次第。大丈夫。きっと上手く行くと思うわ』
何が大丈夫なのかは良く分からなかったが、彼女の声を聞いて、気になる彼に声をかけてみようと、私は歩きだしたのだった。
Fin
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