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「あー! やっぱデュオ王子激推し! とは言え弟も捨てがたいし、やっぱり乙女ゲーの醍醐味は、みんな仲良くハーレムよね!」  散らかった部屋、私の手にはコントローラー。壁には推しキャラであるデュオローグ王子の壁紙や、中の人のCDなどが棚の中で乱雑に並んでいる。  閉じたカーテン越しには、うっすらと太陽が顔を覗かせているように見える。どうも朝が近そうだ。  画面に映るのは、私の推しである男子キャラ達。  エスルナ学園物語と言うゲームがある。とある平民の少女が、王侯貴族が通う魔法学園に入学し、聖女となって世界を救う、と言うのが大きな流れ。シナリオとしてはよくありそうなものだ。  勿論私がこのゲームにはまっているのは、世界を救うためではない。  主人公の聖女となって、推しキャラたちを攻略するために頑張っているのだ。 「しかし、ここまでくるのに八周ですよ八周。せめて同時攻略とか、途中でセーブしても分岐が成立するとかしてくれないと困るんですけど」  私は一応社会人である。香坂千尋26歳。三年近く彼氏無しの普通のOLだ。  当然仕事も行かないとだし、家の事だってしなきゃいけない。有り余る時間を丸々注ぎ込めた学生時代とは違うのだ。ゲームにだってタイパがあってしかるべし。  だがそれでも私がこのゲームを続けてこれたのは、隠しハーレムルートと言う、隠しキャラを含めた攻略対象キャラ全員のハーレムルートがあると聞いたからである。このゲームで私が残しているのは、このルートのみだ。  長い道のりだった。全員の好感度のバランスを絶妙に保ちつつ、隠れ攻略対象キャラの出現フラグ及び攻略条件加入フラグもこなしつつ、彼らの好感度まで調整をしながら進めなければならなかった。  常に綱渡りの選択肢が繰り返される。しかもだ。 「推しに嫌われる選択肢をしなきゃならないなんて……」  そう。フラグ回収のため、どうしても必要な選択肢は、最推しの好感度と引き換えなのだ。私に直接向けられていた訳ではないとはいえ。 『ふん。ここまで人の心を弄ぶとは。二度と俺に近寄るな』  推しキャラにこんな事を言われ、しばらく会話すら不可能となる状況を発生させなければこのルートは完遂できない。鬼畜過ぎる。しかも一度ではない。とある隠し攻略対象キャラを出すためにこの選択肢を選ばなければならない関係上、私は二度、推しに嫌われる必要があった。  このシナリオを書いたライターは絶対性格がひん曲がっていると思った。  だが今、全員の好感度を一定以上に保ち、隠しキャラのフラグ及び攻略条件も達成したうえで、最後の断罪イベントにやってきている。  断罪イベントとは、悪役令嬢であり、各ルートでラスボスである黒の魔女となるマーガレットが、主人公であるフェリスに対しておこなった様々な悪行を暴かれることで、デュオローグからの婚約破棄、実家からの追放をされると言うイベントだ。  ネット情報曰く、このルートに限りマーガレットは黒の女神と言う真のボス形態となり、主人公たちと戦う事になるらしい。その強さは魔女なんて赤子レベルだ。と言われるほど強いらしいのだが、その分フェリスと共に戦う仲間も多く、難易度としては大差がない、との事だ。 『マーガレット! 今を持って君との婚約を破棄する!』 『お前は我がフィオネット家からも追放する。これほどの悪行を繰り返していたとは、フェネクス王家には申し開きが立ちませぬ』  画面の中、壇上には王子と主人公フェリス。少し離れたところには悪役令嬢マーガレットの父親。主人公フェリスの後ろには、攻略対象である男子キャラたちがずらりと並んでいる。  向かい合っていたマーガレットは俯き、彼女の体に黒い靄が集まっていく。そう。ここで、彼女に集まる黒い靄が彼女の中に入っていき、彼女を黒の魔女へと変えるのだ。  だが今回は隠しルート。いつもと違い、悪役令嬢マーガレットはその体躯を真っ黒な靄で包み込まれている。  長かった。感慨深い。 「おぉ! ついに来た……あれ、急に眠気が……」  どうして……? いや確かにこのルートをクリアするために、ぶっ通しでやってはいた、け、ど……。  目を開けていられなくなり、私の意識は気付けば微睡みに溶け落ちていた。
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