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『わりとしぶといわね。あら。あなたを何とかしないと進まない……? あぐっ!』 「行くぞ黒の女神。お前はこの私が倒す!」 『小癪な……くっ! 早く身体を寄越しなさい! ぎゃあっ!』  そして今である。そう。確かに私は先ほどまでゲームをやっていた、はずだ。急に眠くなり……となると、これは夢なのだろうか。  だが、黒の女神、と言う単語は、間違いなく私がさっきまでやっていたゲームの、隠しラスボスの名前である、はず。ゲームのやりすぎで、夢にまでゲームが出てきている……? 「デュオ様! 私が!」 「フェリス!」 「フェリス様!」 「フェリッ!」  声しか聞こえない。だがその名前は、その声は、さっきまで私がプレイしていたゲームの登場キャラ達である。  キャアッと言う声の後、推し達の声が耳に届く。  視界の先では時間が止まったかのような、黒と幼少期の混ざり合った風景。そこに何故か躍動感のある声が聞こえる、と言うのは、あまりにも奇妙な感覚だった。 『あな、たは……』 『ちぃっ! どいつもこいつも私の邪魔をして! 多少肉体が傷つくかもしれないけれど仕方ないわね! 来なさい!』 『あぁぁぁぁぁ!』  うぐっ! 体が、全身が痛い! 引きちぎられそうな、何なのこの痛みは……。  走馬灯のように思い出される、様々なゲームの、推し達の記憶。それが急速に抜け落ちていくような、そんな気配を感じた。  親の顔が、昔好きだった人の顔が、自分の会社の人達の記憶が、学生時代の甘酸っぱい記憶が……。思い出したあらゆる記憶に、黒いヒビが入っていき、そこから染み出した黒いインクが、私の記憶の中の光景を、黒く染めていって……。いや、ちょっとまって! な、何なの! これは、どうなってるの!? 『あなたがどこから来たのか分からないけど、私の邪魔をするなら容赦はしないわ! さっさと黒い記憶に呑まれなさい!』  今も流れ続ける、記憶の中の光景。あらゆる日常の記憶が、かつての記憶が、少しずつ黒に呑まれていく。  流れ出てきた記憶の中の、親の顔が黒く染まる、人の顔が黒く染まる、名前は……あれ、名前が、思い、出せない……。  そして、流れた光景の次の場面。私の前に広がったのは、さっきまでやっていたエスルナ学園物語のゲーム画面と、その前にあるゲーム機の姿。ここにも黒いヒビが入り、視界が、記憶が、黒く染まっていく。  ……何がどうなっているか分からないけれど、このままではまずい。必死に動かせば、視界の先で動く私のものと思しき右腕があった。 『……はぁ、はぁ……おね、がい! わたくしの、大事な、人を……』 『ほらほら、後ちょっとで……なっ! ま、待ちなさい! そんな事をしたら!』  腕の先は、あと少しでゲームのリセットボタンに届かんとしていた。 『あなただってどうなるか分からないわよ!』 『押し、て! それを! 時を……戻して!』  不意に入った力、不思議と腕の感覚を取り戻した気がして、私は一気に、ゲームのリセットボタンに手をかけた。 「リセット!」  そして、世界は暗転した。
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