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「この度デュオローグ第一王子が、新しく学園に来られる聖女様の面倒を見られることになった」 「どうしてデュオローグ様が?」 「聖女様は王家が全面バックアップをすべき存在だ、と言うのはあなたも分かっているだろう? 将来は王位を継ぐ可能性が高いデュオローグ王子が彼女の手助けをする事で、聖女様に恩を売る。結果としてフェネクス王家への信頼度を高めるとともに、将来デュオローグ王子が王位を継いだ際、聖女様の力を借りやすくするためだ」  私が再び意識を取り戻した時、耳に聞こえてきた会話はそれだった。 『どうしてデュオローグ様は、わたくしに直接話に来てくれないのでしょうか……?』  頭の中に響く声。それは今しがた話をしていた女性……いや、えっ!? ちょっと待って! 何これ!? 「それは承知いたしましたが、何故それをわたくしに?」 「分かっているだろう。マーガレット伯爵令嬢。王子が面倒を見るのだ。一応許婚であるあなたには話を通しておくべきだろう、と言うだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」  マーガレット? え? もしや、いや待って。よくよく見たら目の前の彼って、エスルナ学園物語の攻略対象の一人、リュシオンじゃない!? ちょっと待って! え!? 何ここ!? ゲームの中の世界!? そんなバカな。嘘でしょ!?  なお周囲を見回せば、見慣れたゲームの学園の廊下。窓の外には、これまた見慣れた雄大な街の景色が見える。 『一応……デュオローグ様にとって、わたくしはその程度の存在、なのですか? いえ、そう、なのでしょうね』  私の感情とは裏腹に、目元に涙が溢れる感覚がある。まるで悲しみの感情。ってちょっと待ってよ! 何なのこれ? え? もしかしてこれってマーガレットの心の声!? 何がどうなってるの!? 「さて、長居をするのも悪いな。失礼する」  あ、リュシオンが帰っていく。  王子の専属の騎士であり、カップリング時のセリフは――これからはあなたの騎士として、わが生涯を捧げる――だったっけ。でも、なんて言えばいいんだろう。私としてはこう、もうちょっと引っ張ってもらえる感じのデュオ様とかの方がやっぱりいいんだよねぇ。勿論攻略もしたんだけどさ。 『……だ、ダメですわ。ここで泣いては、フィオネット伯爵家としての、恥に……』  顔を伏せる。溢れる涙の感覚。顔を覆う手の感触。ってちょっと待ってよ! ホントに私どうなってるの! あーれー! 誰か聞こえるー? ねぇねぇ? 誰かー? 「……やはり、お話は出来ないのでしょうか……。昔の様に、ガレットと、呼んでいただくことは、無理なのでしょうか」  意図せず漏れ出る言葉が聞こえてくる、自分の感情ではないものの、マーガレットと思われる彼女の悲しい感情は伝わってくる。これ、どうしたらいいのだろう。  と言うか私どうなってるの? これって夢? ゲームをやり過ぎてリアルな夢を見ているの? 誰か、誰かいないの!  ふと、涙でぼやけた視界の隅に黒が映る。屋根から零れ落ちるしずくの形で地面から浮き上がった黒い滴り。 『ニガ……サナイ……』  ぞくりと、寒気がした。いや、気のせいだったのか。私の感覚は、気付けば再び彼女と同調しているのか、あふれる涙の感覚を必死にこらえようとする奇妙な感覚に満たされていた。
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