のびのび

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 私は、おふたりにのびのびと育てていただきました。  塾や習い事を押し付けられることもなく、自由気ままな子供時代を過ごしてきました。3人の兄と姉に囲まれて、それはもう毎日が賑やかで賑やかで。姉が部活で優勝したときには一家で盛大なパーティーをしましたし、兄の受験ではみんなで遠くの神社まで行って一心に合格を願いましたね。あの日は寒かった。そうだ、2番めの姉が結婚したときはとにかく凄かったですね。ビールを掛け合ってどんちゃん騒ぎをしていたと思ったら、手紙の朗読を聞いて滝のように号泣する。あの日のキラキラしたみんなの姿は忘れられません。  さて。そんな私も25歳です。  20歳で行うはずだった成人式は、感染症のために延期延期と言われ、ついにはとりやめになってしまいました。そこで、状況も落ち着いた今年に、募った有志で主催して華やかな成人パーティーを執り行うことにしたのです。あれから5年です。晴れ姿を見せる日がずいぶん延びてしまったことをお許しください。  どうでしょうか。もう成人どころか、25歳ですよ。あの日、4年生になったら習わせてあげると約束していたピアノ教室は、まだ駄目でしょうか? 5年生になったら、6年生になったら。今年はどうかな。私は今でも待っていて、4月になるたびそわそわしているのです。  そういえば、塾もありましたね。中学生のとき、塾で数学をちゃんと勉強したいと申したら、あなたがたは当時3年生の兄の受験が終われば通わせてあげると。その後、やっぱり部活を引退するまでは無理だ、とも。私、もうテニスラケットなんて10年近く触れていませんよ。  どうでしょうか。姉がインフルエンザになったので後日することにした私の8歳の誕生日パーティーは。何もかもお下がりでは可哀想だからもうすぐ買い替えてあげると言っていた自転車は。3歳だった私だけ記憶にない、必ずもう一度家族で行こうとよく笑っていた沖縄旅行は。  いかがでしょうか。延ばしに延ばされた約束の「いつか」はきっと来ると信じてもいいのでしょうか。ほんとうに、私はのびのびと育てていただきました。先延ばしになった何もかも、きちんと反故にされることもなく今でも延び続けていますね。私は約束の果たされる日を楽しみに、これからも頑張って生きていきます。  最後に。これでも私は、育てていただいたことにとても感謝しています。ほんとうにありがとう。至らない末っ子を、これからも見守っていただけると幸いです。  なんてね。  どうせこの手紙を読むのも、ずっと延び延びにするつもりでしょう?  END
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