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甲高いインターホンの音で俺は目を覚ました。昼前だというのに真理は相変わらず鼾をかいている。
扉を開けると、配達員が段ボールの箱をつきつけてきた。そういえば昨日、仕事用に新しい安全靴を注文したのだった。
開封してから俺は眉を顰める。収納されていたのは真っ黒な靴だった。
おかしい、俺はたしか白い靴を注文しはずだ。ユキの白さを身近に感じられるように。
急いでスマホで注文履歴を確認したが、どういうわけか俺が選んだのはやはり黒い安全靴だった。
その夜はいつものように真理は行き先も告げずにどこかへ出かけ、翔太の姿も見当たらなかった。
俺は一人ビールを注ぎながら馬鹿げた妄想に捕らわれる。
ひょっとして、この世界は俺が黒い靴を選んだ世界線なんじゃないか? 違いはよく分からないが、昨日とは別の世界線にジャンプしていたら?
ポケットをまさぐると例のビニール袋に指が触れた。
テーブルの上に青い錠剤が散乱する。俺は一粒を摘み上げてまじまじと見つめた。
……まさかな。
俺は自分の妄想が馬鹿らしくなって苦笑した。
それから、その一粒を口に放り込むとビールと一緒に流し込んだ。
***
夢を見た。
俺は濃い霧に包まれた森の中にいた。
眼前には湖があり、湖に架かる木造の橋の先に人影が見えた。シルエットから察するにワンピースを着た若い女のようだ。
俺は女に走り寄って大声で呼びかける。
振り返ったユキは俺を認めて、満面の笑みを返す。
「驚かないでね。私たちパパとママになるの」
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