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また夢を見た。
俺は知らない部屋にいた。古くて狭い部屋だが、清潔感がある。きっとこまめに掃除を欠かしていないのだろう。階下から物音が聞こえる。断続的に響く心地良い音色。誰かが包丁を使っているらしい。
きしむ階段を下りて居間に入ると、テーブルに朝食が用意されていた。味噌汁に焼き立ての鮭。すでに瑞々しいご飯もよそってある。
台所に目をやると時代遅れの割烹着を着て忙しなく動き回る女性がいた。振り落とされまいと女性の太ももに小さな女の子がしっかりとしがみついている。
ゲーデル爺さんの言葉が耳元で蘇る。
(無意識状態の脳は、平行世界の間を揺蕩っているからじゃ)
今、俺の無意識はユキと結婚し、子供を授かった世界線を揺蕩っているのだろうか?
だとすれば、この世界は必ず存在するはずだ。
「……ユキ」
心から愛する女に呼びかける。
「俺は必ずこの世界を捕まえる。そしたらもう二度と、絶対に離れないと誓うよ。だからもう少しだけ待っていてくれ」
ユキは振り返ってからキョトンとして俺を見た。それから、とても嬉しそうに笑った。
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