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 幸福な気持ちで目覚めた俺は周囲を見回した。そこは変わり映えしないアパートの一室だった。外はすでに日が暮れているようだ。散乱した衣類やごみを避けて、隣室の襖を開ける。  カバみたいに大口を開けて眠りこける真理の姿があった。  期待した世界に跳躍を果たせなかったことを知って、俺はひどく落胆した。  しかし、すぐに視界が異常を察知する。和室の奥に見覚えのない仏壇が設置されていた。  真理を慎重に跨いで仏壇に顔を近づける。遺影を見て、俺は間抜けな悲鳴を上げてしまった。  そこに写っていたのは翔太だった。 「朝っぱらから女みたいなきっしょい声出すんじゃねーよ」  目ヤニをこすりながら真理がのっそりと起きだしてきた。 「こ、これは、どういうことだ? 翔太は……死んだのか?」  真理は一瞬呆けた表情になったが、見る見る怒りで顔面を紅潮させた。 「お前、まさか痴呆のふりして逃げ出そうってんじゃないだろうな」  真理の手が俺の首を鷲掴みにし、そのまま強力な力で壁に押し付ける。 「お前のせいで死んだんだろうが! お前が川遊びをしたいなんて小学生みたいな駄々をこねるからよお! 翔太は溺れ死んじまったんだろうが!!」  その瞬間、雷に打たれたように記憶が鮮明になる。確かあれは……三年前だ。真理が珍しく家族で遊園地へ行こうと言い出した。俺はダメもとで自然豊かな渓流観光を提案した。案の定、即座に却下されたが……。  間違いない。この世界は三年前に分岐した世界線だ。俺は今、家族旅行に川遊びを選択した世界にジャンプしている。  瞬間、重力の感覚がなくなった。怒りに任せて真理が俺を投げ飛ばしたのだ。  床にしたたかに打ち付けられて悶絶する。痛みでも恐怖でもない。突き上げる高揚感に俺は悶絶した。  仮説は正しかった! 一度に摂取する薬の量に比例して、より遠い過去に分岐した世界線にジャンプできるのだ。  真理が俺の髪を引っ掴むと、そのままキッチンまで引きずっていく。  すでにジャンプは三回目。次が最後だ。絶対に失敗は許されない  真理がキッチンカウンターに俺を投げつける。放置してあった食器や調理用具が散乱する。  残りの錠剤を一度にすべて飲み下すんだ。そうすれば必ずあそこへ行ける  耳元に真理のジメジメした吐息がかかる。 「やっぱりお前は人殺しだ」  この地獄から抜け出すんだ 「この人殺しい」  それから俺はもう一つ重要なことに気づく。   「ひ〜と〜ご〜ろ〜し〜」  振り向くと同時に俺は真里を抱き寄せる。  真理が自分のたるんだみぞおちに視線を落とす。  俺は分厚い脂肪にまるまる飲み込まれた包丁の柄を両手で握ると、真理の耳元で言ってやる。  「俺はジャンパーだ。この世界では絶対に捕まらないんだよ」  それから腕に体重を乗せて恥骨まで一気に引き裂いた。
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