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そうだ、美和が歌っているのは『あいのうた』だ。
目が覚めて白い天井を見ながらボンヤリと思い出した
そこは病院のベッドの上だった。
当然美和は隣に寝かされていると思った。
でもいなかった。
隣のベッドどころか、この世からも。
なんで?どうして?
ずっと歌ってくれていた。
2人で話していた。
僕より気丈で軽症だと思っていた。
救助の光も一緒に見たはずだ。
どうして助けてくれなかったのかと暴れたところで車の写真を見せられたら諦めるしかなかった。
助手席側が落石に潰されていた。
ほぼ即死だっただろうと告げられた。
何度もテレビで決死の救助活動や救命救急の映像を見てきた。
僕はみんなに自分の悪態を謝罪した。
美和の即死は納得した。
でもあの時のやりとりも夢じゃない。
だって美和は最後に‘じゃあね’と言ったのだから。
僕はどの面を下げて守るのは男の役目だなんて言えたんだろう。
美和は魂で僕を励まして、暗闇が怖くないようにずっと歌って守ってくれた。
まだ籍を入れていなかった僕は喪主にさえなれなかったのに。
反対だったら良かったのにとも思う。
だけどそうなったところで美和は僕以上にひとり残った罪悪感と悲しみに苦しむだろう。
結局は2人で助かるしか幸せになんかなれないんだ。
友達も会社の人も生きていてよかったと言ってくれた。
美和のご両親は啓之くんだけでも助かってよかったと言ってくれた。
父親は彼女の分も強く生きていきなさいと言った。
美和が守ってくれた命を粗末にするつもりはない。
だけど君のいない世界でどうやって生きていったらいいの。
八方塞がりの僕は今夜も『あいのうた』を繰り返し流し口ずさむ。
電気をつけたままでも眠れやしない。
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