4

2/4
前へ
/16ページ
次へ
 文字での返事を続けていると、却ってこっちの方が楽だということに気がついた。昔から、人と話すのはあまり得意ではない。 「帰りに実家に寄ったりするの?」  僕は『いいえ』と返す。 「ちょっと前にお盆だったもんね」  実際のところ、実家を出てから一度も帰省していない。話題を変えようと先日の漫画についての文章を打ち込んだが、間に合わなかった。 「辰巳くんのご両親は、どんなひと?」  僕は途中だった文章を全て消し、少し迷ったあとに返事を書いた。 『僕が小学生のころ、離婚しました』  佑里は顔をあげて僕を見たあと、もう一度携帯に視線を落とした。僕はまた新しい文章を打つ。 『僕は母についていきました』  今でも耳にこびりついて離れない声がある。親権を押し付け合って、言い争いをする両親のものだ。最終的に母が折れたのは、相場以上の養育費を支払うという条件が提示されたからだと、小学校を卒業する直前、酷く酒に酔った母の口から聞かされた。  父と別れたあとの母は、父への憎しみを糧に生きているようだった。父の面影を宿していく僕を、母は疎んだ。怒鳴られたり悪態をつかれたりするのは耐えられたけど、無視されると涙が出た。  それでも、中学校の成績表を見せたときだけは、珍しく褒めてくれた。 「あんた、勉強できるんだったら、頑張って大学行きなさい」  その言葉こそ、僕の指針だった。 『それなりの国立大学にでも受かったら、見直してくれると思ってたんですけど』  しかしそれは結果的に母を落胆させることとなった。私立の方が学費が高く、父にさらなる負担をかけられたからだ。  変に勉強だけできるところも、あいつと同じね──吐き捨てるように言われたとき、僕の心を支えていた糸のようなものがぷつんと切れてしまった。 『もう、なにもやりたいことが無いんです』  佑里は黙ったまま、僕を見ていた。 
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加