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目的の駅は、市の中心から2駅ほど離れたところだった。駅の周辺は飲食店などもあってそれなりに栄えていたけれど、駅舎が見えなくなるとやや寂しい印象を受ける住宅街に変わった。残暑と呼ぶには強すぎる日差しが、いっそう人足を疎らにしているのだろう。
地図アプリを確認しながら歩くと、古民家が並ぶ一帯に入った。その中の一軒の前に差し掛かったとき、佑里が門にかかった表札を指さした。
「あ! ここ!」
「立派な家ですね」
屋根までついた門構えの時点で圧倒されてしまうが、母屋もかなり大きく、門の隙間から見える庭はまるで日本庭園のようだ。
「お父さんの車もある!」
「移れそうですか?」
「うん! 魔除けのお札とか貼ってなくて良かったぁ」
「魔だったんですね」
それっきり、ふたりとも口を閉ざしてしまう。彼女から逃れるために、ここを目指したはずなのに。
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