十三

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十三

 三人は、長屋の外に出る。月の薄明かりの中。  稀代の天才であり、山師でもある奇人が一人。  名は平賀源内。    腑分けに情熱を燃やし、医学の発展に尽くす奇人が一人。  名は杉田玄白。    放たれる前の弓矢のごとく、世に出る日を待つ奇人が一人。  名は中島鉄蔵。 「いざ! さらば!」  と三人が声を掛け合い、下弦の月の下、三方に分かれて行った。  中島鉄蔵は、後に葛飾北斎と名のり、江戸時代後期を代表する浮世絵師となる。『ベルリン藍』(通称『ベロ(あい)』)を駆使して、北斎ブルーと言わしめる浮世絵を多数、世に出す。  北斎は、九十歳でこの世を去るまで、実に九十三回も引越しをしたと、伝えらえれている。部屋が汚れるたびに、片づけが面倒なので、引っ越しをしたと言われるが、真偽は定かではない。  巷説 月下三奇人  葛飾北斎引越顛末記   完
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