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十
「源さん! すっかり元気になりましたね」
「おう玄の字。おかげさまやで。足のいたみも無うなった。てっつぁんにも、世話になった」
「いえ、あっしは、平賀先生や杉田先生のお役に立てただけでも、感激でさあ」
「ほうか。でも、あんまり長居はできんけんの」
源内は玄白を見てうなずいた。
「うむ。僕は、ここに来る途中に、妙に鋭い目つきの男たちとすれ違った。ありゃあ、反老中派の追手かも知れない……」
源内、今度は鉄蔵を見る。
「てなことや。わしは、今夜ここを出ることにするで。玄の字、悪いがあんたに預けてある、わしの手荷物を、今晩ここに持ってきてくれんかな」
「あいわかった。で、源さん、今夜ここを出てどこへ?」
「讃岐(香川県)に帰る。ぼちぼちな。わしは、小伝馬牢で死んだことになっとるから、何とかなるやろう」
「さ、讃岐って西の果てじゃないですかい。大丈夫ですかい?」
鉄蔵は讃岐に行ったことはないが、漠然と遠国だということは感じていた。
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