十一

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十一

「大丈夫や。それより、てっつぁんこそ、ここにおったら危ないのとちゃうか。反老中派にばれたら、わしの事を、あれやこれや詮索されるで」 「あっしは、先生方の事は絶対、しゃべりやせんぜ」  フンと鼻息荒く、腕を組む鉄蔵。 「分かってるって、でも鉄蔵君に、迷惑がかかってもいけないからね。僕が、新しい長屋を手配しておくから、そこに引っ越しなよ」  玄白が、鉄蔵の肩をつかんで軽く揺する。 「わ、わかりやした。謹んで恩義にあずかりやす」 「じゃあ、今晩、日が暮れてからまた来る。それまで、源さんと鉄蔵君は、ここを引き払えるようにしといてくれよ」  そう言って、玄白は長屋を飛び出して行った。 「玄の字は、(せわ)しのないやつやな」  安永8年12月22日。下弦の月が、薄ぼんやりと浮かんでいる。手筈(てはず)通り、玄白が源内の荷物を持って、鉄蔵の長屋に戻って来た。鉄蔵は、少ない家財道具を、大風呂敷にまとめて引っ越し準備を整えている。   「怪しいものは、いなかったよ。速やかにここを出よう」  玄白は、土間に立ってそわそわする。 「玄の字、ちょっと待ってくれんか。てっつぁんに渡したいものがあるんや」
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