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 こりゃあいけねえ、病人か? 「もし、そこのおかた、何ぞ難儀(なんぎ)ですかい?」  鉄蔵(てつぞう)の声に、介抱している者が、驚いたように振り向く。  鼠色の着物に袴、十徳(じゅっとく)と呼ばれる、丈の短い羽織(はおり)を着ている。頭髪は()り上げ丸坊主。一見して茶人か医者の(よう)。 「おお、済まない。この男、ちょいと足に怪我をしていてね。治療をしようと、僕の屋敷まで行くところだったのだが、痛みのために、歩けなくなっちまって、ここで寝っ転がってたってわけなんだ」  この男、医者のようである。見た所五十歳位だが、老け込んではいない。言葉遣いや身のこなしから、追剥(おいはぎ)の類とは思えなかった。本当に難儀しているのだ。鉄蔵は、坊主頭に近づいた。 「もしよければ、あっしが何か、お手伝いしやすぜ」 「そうか、そいつは助かるよ。ちょっと、肩をかしてくれないかな」 「へい」  寝そべっている男の腕をとる鉄蔵。男は苦悶の表情で額には脂汗(あぶらあせ)がにじみ出ている。肩に乗せた男の腕は、汗を()びて熱い。 「いてててえ、()てえよう。だめや、(げん)()! もう動けんて!」  男が駄々をこねるように、()を上げる。この男、介抱している坊主頭の男より、五つは、年上のように見受けられる。羽織姿だが、(まげ)はほどけてざんばら髪。右足に、血のにじんだサラシ布を巻いている。 「なあ(げん)さん、もうちょっとだ、頑張ってくれ。ほれ、立ちあがるよ」  玄の字と呼ばれた男が、鉄蔵と目を合わせる。 「せーの!」 「いてててて、だめやって。痛いんや! 歩けん、歩けんって!」  そう言いながらも、男は何とか。ずるずると立ちあがった。
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