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五
「ああ、てっつぁん、ありがとうな。捨てる神あれば、拾う神ありやなあ」
「平賀先生は、誰かに捨てられたんで?」
言葉通りに受け取って、聞く鉄蔵。
「ほうなんや。わしは、捨てられるところやったんや。てっつぁん、あんたは、わしを拾うてくれた神さんやから、本当のことを言うわな」
「え、あっしなんかが聞いても、いい話なんですかい」
「ああ、あんたさえ黙っとったら大丈夫や。実はな、わしは小伝馬町の牢に入れられとったんや」
「平賀先生ともいうお方が、何かやらかしちまったんですかい」
「ほれがやなあ。何もやらかしとらんのやで。これは、反老中派の陰謀や」
「え! 老中とは、江戸幕府老中、田沼 意次様の事ですかい……」
大声が出そうになった鉄蔵だが、その重大さに声を抑えた。
「ほうや。わしは、田沼様とは懇意にしとったんやけんど、それをよく思わん奴も、ようけおってなあ」
「はあ、田沼様の御政道の、よくない噂も聞きますぜ」
「おう……。ほんでな、わしがある日、大名屋敷の修理を請け負ったんや。そこで、なんやしらんが大工どうしが、喧嘩を始めてな。一人は刃物を持っておったんで、わしは止めに入ったんや。もみあいになって、わしは足に怪我をした。ほれが、これや」
源内は、右足を指差した。
「はあ。それでどうなったんで」
「一人の大工が、刃物をでもう一人の大工を殺めてしもうた。で、そいつは、どっかに逃げて行ってしもうたんや。結局、問答無用で、わしが大工殺しの下手人にされた。そんで、小伝馬町の牢屋に入れられたっちゅうわけや。あほげな話やろ。足の怪我は悪うなるし。もう地獄やったで。牢役人がこそこそ話しとることで、これは、田沼様の政敵の奸計ということを知ったんや」
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