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六
「でも、牢から出られて、よかったじゃないすか」
「親友である、杉田玄白が、わしの事を、老中に知らせてくれたんや。老中は、すぐさま牢役人に手を回して、わしは牢内で死んだことにして、出してくれたんや。ほんで、牢を出て玄の字の家に行く途中に、足が悪化してぶっ倒れたところを、てっつぁんに助けられたっちゅうことやな」
「そうだったんですかい。でも、政敵の奸計なら、また平賀先生は、狙われるんじゃないですかい」
「まあ、わしは、牢で死んだことになっとるけどな。壁に耳あり障子に目ありや。いつかは、わしが生きとることが、ばれるかもなあ。てっつぁんには迷惑をかけられんしなあ。足の痛みが取れたら、すぐに出ていくけんな」
痛みのためか、また、歯を食いしばる源内。
「いや、あっしは大丈夫でさあ。平賀先生こそゆっくり静養してくだせえ。まさか、あっしの家に平賀源内先生がいるなんて、誰もわかりゃしませんぜ」
「ありがとうな。す、すまん……な…………」
そのまま、源内は意識を失ってしまった。
「遅くなった。すまない。鉄蔵君! 僕だ。杉田だ」
障子を開けて、玄白が飛び込んで来た。目をつぶって横たわっている源内を見て、一瞬驚いたようにハッとする。素早く脈をとって生存を確かめた。
「さきほど、お休みになったようで」
「そうかい、心配をかけたね。今からここで治療をさせてもらうよ。念のためだ、もし源さんが暴れるようだったら、押さえてくれないか」
「ええ? 平賀先生が暴れるような治療なんですかい?」
「まあ、目を覚まさなきゃ、大丈夫だけどね」
蘭学医杉田玄白の治療は、初めて見る西洋医術で、鉄蔵にとっては驚きの連続だった。焼酎を源内の足の傷に掛け、小刀で切ったり、糸のついた針で傷口を縫ったりする。
幸いだったのは、手術の途中で、源内が目覚めなかったことだ。
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