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七
「とりあえず、様子を見よう。それでだ、鉄蔵君。やっぱり源さんは、今は動かせない。で、お願いだ。源さんをしばらくここへ、おいてやってほしいんだけど」
「へい。ここに来た事情は、平賀先生からお聞きしやした。あっしでお役に立てるなら」
「おお。それはありがたいよ。なにしろ、どこに老中の政敵がいるか分からんからね。じゃあ、源さんが歩けるようになるまでだ、よろしく頼むよ。僕も用心して、ここにくるようにするよ」
「へい。おまかせを」
「源さんよ。いい人に出会えてよかったな」
源内は、いつしかイビキをかいていた。
翌日、源内は目を覚ますと、辺りを見回した。見たことのない裏長屋の四畳半。明るい障子の向こうからは、長屋の店子のあわただしい声が聞こえる。
たしか昨日、玄の字が牢の裏口に迎えに来た。帰る途中だった。激しい痛みで歩けなくなり……。
「平賀先生、お目覚めですかい」
鉄蔵が、盆に朝食を並べて源内のもとに差し出す。ご飯にみそ汁、漬物に焼いた目刺。鉄蔵、精一杯のおもてなしだ。
「ここは? あんたは……。そうや、鉄蔵……。てっつぁんだ。思い出した。わしは、牢を出て、玄の字の屋敷に行く途中で、ぶっ倒れたんや。途中、助けてくれたんが、てっつぁんやったな」
「へい。平賀先生が、お休みになってから、杉田先生がお見えになって、治療をされやした」
「ほうか……。全然わからんかった」
そう言って、右足の包帯を見る源内。
「平賀先生、足の具合が良くなるまで、あっしの四畳半でご逗留くだせえ。ぼろ屋で、申し訳ありやせんが」
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