1/1
前へ
/13ページ
次へ

 鉄蔵も、一緒に朝食をとる。 「ありがとうな。あんたは、命の恩人や」 「めっそうもねえ。それじゃあ、あっしは、仕事がありますんで。平賀先生は、ごゆっくり休んでくだせえ。杉田先生も時々こられるそうで。くれぐれも、ご無理をなさいませんように」  鉄蔵は、周りに見慣れない人物が、いないかどうか、気にしながら長屋を出た。  夕刻には帰って来て、源内と食事をする。源内は、三日もすると痛みも和らいだようで、立ちあがって、裏長屋を散歩したりするようになった。鉄蔵がみそ汁をつぎながら、源内を見る。 「平賀先生、足の方は、いかがなもんで?」 「おう。すっかり痛みもひいたよ。ところで、てっつぁんは浮世絵の絵師なんか? 悪いとは思ったけんど、部屋の隅っこにある絵をみせてもろたで」  源内は、鉄蔵の描いた絵の束を持ち上げた。 「いや、お恥ずかしいこって。浮世絵師、勝川(かつかわ) 春章(しゅんしょう)先生に師事しておりやす。画号は、いちおう勝川(かつかわ) 春朗(しゅんろう)っつう名で」 「ほうかい。でもこれは、勝川春章の絵でなく、てっつぁんの絵だよなあ。ええで、この富士山や海。美人画とは違う迫力があるで」 「おほめにあずかり、恥ずかしい限りで……」  鉄蔵は、正座をして猛烈に頭を掻いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加