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「あー」
そんな間延びした声が聞こえた。女の子の、声。
確実に恵子だと思っていた僕は、目を開いて驚いていた。
おまえは誰だ。
「そこまで引いちゃうかなぁ。ずざざって、音が聞こえそうだったわよ。ね? エリク」
「目が覚めていきなり人の顔があったら、たいていは驚くんじゃないかな。君の顔のせいじゃないよ、ティナ」
「私はそうは考えなかったわ」
「予想していた顔と違ったから、驚いたとか。誰か心に描いた人がいるのかな?」
「……妹が……」
相当の含みを持たせて、その男が口にした言葉に、『考える』という過程をぶっとばし、『思わず』口にした言葉がこれだ。
妹?
「妹さん、ね」
「どうしたの? エリク」
「いやいや。はて、お茶が入りました。ティナ、お菓子出して」
「はーい」
「踏み台、ちゃんと使いなさいね。君の背伸びは期待できない」
「だったら、自分で取ればいいでしょお」
「君のお仕事」
「わかっています」
などと答えながらも不本意そうに、扉の向こうに姿を消すティナ(?)を見送り、エリク、はこっちに向き直った。
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