楽園の妖精(フェアリー)はただ一人の歌で舞う

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「今日はいいお天気よね」 「そうだね。風もほどほど。そろそろ君の椿も開いていい頃だね」  今。考えたことは、どこへ消えた? 確かに何かを思っていたと思ったのに。  忘れて、しまった。 「あの」 「はい?」 「あ、お茶ね? じゃあ、二杯目は私が」 「あ、どうも。いや、そうじゃなくて、」 「いらないの?」 「いえ、戴きます」  エリクに一瞬、強く見られて、思わずうなずいていた。断ってはいけないと、そう言いたいんだな、あなたは。  ティナがいそいそと、花模様のポットを持ち上げ、カップに紅茶を注いでいく。  手つきは明らかに、エリクの方が上。彼のは洗練された動きだった。    湯気の向こう、フランス窓の向こうには、どこまでも銀世界が広がっている。  そして、さらにさらに降り積もる銀。  暖炉の火の暖かさ。曇りかけたガラス。  微かに風の渡る音が聞こえる。  
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