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女子大生の話
歌声が聞こえる。
どうしてこうなったのだろう。
ここは某歌番組の公開オーディション会場。
私はステージ裏で身を縮こませながら、他の挑戦者の歌声を聞いていた。きっかけは大学の友達とのその場のノリ。
「見て見て!! 歌番組のオーディション挑戦者募集してるよっ!」
授業の合間に親友がスマホ画面を見せてきた。
「えっ⁉ いきなり、何よ?」
「ねぇ、一緒に応募してみようよ!」
「えっ⁉ ヤダ!! だいたいさぁ、一次選考で落ちるって」
「そんなこと言わずにさぁ〜。今度、焼肉奢るからっ!!」
親友は頼み込まれたら断れない私の性格をよくわかってる。
「二回! 二回焼肉奢ってくれるならいいよ」
「奢る、奢るっ!!」
親友は首をぶんぶんと縦に振った。
(はぁ……私ったら弱いなぁ……)
内心、溜息をつきつつ、まぁ、どうせすぐに落ちるからいっか! と軽く考えていた。
しかし、だ。私だけ、トントン拍子で公開オーディションにまでこぎつけてしまったのだ。
(あぁ、もうなんでこんなことに……)
本日、何度目かわからない溜息をついた。
*
私の出番となり、舞台へとおずおずと出ていった時だった。スタッフの動きが慌ただしくなり、司会者や審査員に何やら耳打ちしているのが目に入った。
(なに?)
スタッフが離れると、司会者が真剣な声色で原稿を読み上げた。
「西部のF都市が隣国から軍事侵攻を受けたとの情報が入って参りました。この緊急事態を受け、本公開オーディションは中止とさせて頂きます」
会場全体がどよめく。
(軍事侵攻!? F都市?? 地元じゃない‼ うそっ????)
私はすぐに理解できなかった。いや、理解したくなかった。
(まさか! まさか!! まさかっ!!!)
足がガクガクと震える。
「あの〜、すみません。オーディションは中止となので、一旦舞台裏へ下がってもらってもいいですか?」
スタッフが立ちすくんだままの私に声をかけてきた。
「あぁ……はい…………あ、あのっ……」
スタッフが訝しげに見つめてくる。でも、そんなことはどうでもよかった。
「私はF都市の出身なんです……あのっ……地元の歌を歌わせてくれませんか?」
「えっと、歌を? なんでまた?」
「今、侵攻の恐怖に脅かされている人たちに、少しでも希望を、と思って……」
スタッフは困惑の表情を浮かべたが、横で聞いていた司会者が援護してくれた。
「いいじゃないか! 歌ってもらおう! 歌には素晴らしい力があるんだ!」
ドキドキしながらスタッフを見つめていると、溜息交じりに「一度だけですよ」と許可してくれた。
「ありがとうございますっ!」
私はスタッフと司会者に深々と頭を下げた。
*
マイクを握りしめ、観客席を真っ直ぐに見据え、歌を歌い始めた。歌は故郷を流れる大河を讃えたもの。もちろん伴奏はなく、私の声だけが響く。
歌い始めると、最初はざわついていた会場が静かになっていく。何事か?といった好奇の視線を感じたが、気にせずに歌い続けた。
地元の風景、両親の顔、友人の顔を思い出し、彼らの無事を祈りながら歌う。
やがて、会場から、私の声に合わせてポツリ、ポツリと歌声が上がり始めた。私一人だけだった歌声に、何人もの歌声が重なり、大合唱へと変化していく。まるで大河のようになった歌声が、侵攻を止めてくれるような錯覚を覚えた。たくさんの歌声に支えられ、私は叫んだ。
「歌よ届いて! 故郷を守って! 皆を救って!」
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