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「で、まあ終わりなんですけどね」
話は終わった。相手は案の定顔を顰めている。
「郷愁と抒情ね……まぁ、なくはなかったかなあ。でもあなた、最後のとこは盛ってるでしょ? 現場見たわけじゃないんだろうし」
「ええまあ、さすがについていくまではしてないんで。ただ、他の目撃証言やその後の調査でわかったことを組み合わせてああいう感じに……。実際あの人、あれ以来行方不明にはなってますしね。それにあの後、警察が調べたらほんの微量だけど血痕が残ってたそうですよ。例の〝千引の床〟に」
「血痕かあ。ヤだねえ。怖い怖い」
戯れというわけでもなさそうに、相手はぶるっと身を竦ませた。
「しかし……実際がとこどうなんだろうね? その川女とかいうの。どう解釈すればいいんだろうね」
「と、言いますと?」
「異類婚姻譚、みたいな。あるじゃない。雪女とか。最後のとこはあなたの脚色っていうか想像だしさ。もしかしたらただ、お互い惹かれあっててやっと会えた、みたいな。そういうことでさ。今頃異界か異世界どこかで二人、幸せに暮らしてるのかもしれないよ」
「なるほど! ロマンチックだ!」
「そう? 普通じゃない?」
「僕の解釈は少し違うんですよ。川女って妖怪、まあ怪異でもUMAでも宇宙生物でもなんでもいいんですけど、は、捕食者だと思うんです。人間の。ただ、ホルモンだかDNAだか脳内物質だか、何か求めてるものがあると思うんですね。肉や血以外に。要するに好みにうるさいってことです。で、ですね、上手く条件に合う人間にマーキングするわけですよ」
「それが画家の先生にとっては、少年の頃の出会いってこと?」
「そうですそうです。で、放流する。撒き餌ですよ。生餌の撒き餌です。 噂を広めるんですよ。川女っていう謎の存在の。するとそういう不思議な話にそそられる、もの好きな連中が集まってくる。それが次の食事ってわけです。そういう話に惹かれるってのが、川女の好みの何かの条件に当てはまるんじゃないかなあ。松谷先生なんか、たくさん絵に描いて世に放っちゃったわけで、撒き餌としちゃ非常に優秀、ってことですよ」
「なるほど……。で、死が近づいてきて、そろそろ用済みだから回収した、ってことか」
「そういうことです! どうです? いいセンだと思いませんか?」
「やっぱり聞かなきゃよかった」
了
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