絵の女

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「川の女って書いて〝川女(かわめ)〟なんて呼ばれてますね。お話としては、松谷先生とだいたい同じなんです。子供の頃に川辺で会ったような気がする。そういえば、って感じで。夢か現かも判然としない。ある一定の人々の記憶の中にだけ存在する女、みたいな。ちょっと夢の男、〝THIS MAN〟なんかにも近いかなあ。で、話題にするだけなら問題ないんですけど、探そうとすると何か良くないことが起こる、みたいな話です。いいですよね。この朦朧としてオチのない感じ。いかにも都市伝説じゃないですか。関西の人は話のオチを重視する、みたいなこと聞きますけど、怪談はこうでなくっちゃって僕なんかは思いますねえ」 「その御託はいつまで続くの?」  小滝の表情に怪訝なものが浮かんだ。 「ああ……はい、そうですね。松谷先生がこのに会えるかどうかはわかりませんが、場所の特定ではお力になれるかもしれません。この川女、噂の分布がそんなに広範でなく散らばってませんので……。僕の資料と先生の記憶を合わせればだいたいの目星はつくと思いますよ」  急に神妙になった小滝は、色々書き込まれた大きな白地図に手製のノートやバインダーを机に並べた。 「電子化もしてるんですけど、人に見せようと思ったらどうしてもこういう形式の方が楽なんですよね」 「ほうほう。なるほどね」    小滝はなかなかの能書家で、字は読みやすく情報はきちんと整理されていた。資料を読み進めていくごとに、彼に好感を抱いていった。  会話を続けると、彼は私を軽く見たり〝あの女〟を貶めたりしているわけではなく、単にデリカシーがなく言葉の使い方に難があるだけだとわかった。  私の探索行も、ただただ集めている奇妙な話の一つとして興味があるだけで、他の事はどうでも良いらしい。  私の余命が幾ばくも無いことが話題に上っても特に気遣う素振りもない。  余計なことで話が中断しないし、私としてはそれはむしろ喜ばしいことだ。  小一時間ほど検討し、ある程度川の位置は見込みがついた。 「いやあ、君に会って良かったよ。ありがとう。最初はどうなることかと思ったが」 「いえいえ、こちらこそお役に立てて良かったです。その、もし可能ならその後のお話などお聞かせください」 「ああ、そうだね。出来ればね」  私たちはお互いに笑顔で、気持ち良く別れることが出来た。
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