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「それで梨乃さん、どうされるんですか? やっぱり社内の人がお見合い相手なんて嫌ですよね? 喬木社長に断られたんですか?」
先日お見合いをする前にも感じたけれど、なぜか川嶋さんの言葉が「お見合いを断ってほしい」と聞こえてしまうのは、どうやら気のせいではないようだ。私を心配してくれるような言い方だけど、今回も断る前提の会話だし、言葉に棘を感じてしまう。
「それがね、最初はすごく怖い人かと思ってたんだけど、話したらすごく穏やかで素敵な人で……。それで付き合ってみることにしたの」
「ええっ? 付き合う? ほんとに?」
「うん。社長にもそう返事をしたし」
「ほんとにいいんですか? だって梨乃さん、沢村課長のこと好きじゃないですよね? いくら社長からの紹介だからと言って無理して付き合うなんて……」
えっ──?
この瞬間、私の中で再び川嶋さんを信じかけていた気持ちが一気に消え、沢村課長の言っていたことは本当だったのだと、はっきりと思い知らされてしまった。
“だって梨乃さん、沢村課長のこと好きじゃないですよね──?”
こんな風に断言できるということは、沢村課長が言っていた通り、川嶋さんは私と哲也さんが付き合っていたことを知っていたのだ。先日のあのバーでの出来事も決して偶然ではなく、私たちの関係を知っていたうえで自分の彼氏が哲也さんだと私に紹介し、翌日私が目を腫らして会社に出社したのも彼女にとっては容易に想定していたことだったのだ。
表面上はこんなに慕ってくれている態度を装いながらの酷い裏切りに、ショックと嫌気が入り交じり、川嶋さんとどう接していいのかわからなくなってきた。
「なんかそんな風に言われると、私の好きな人でも知ってるみたいに聞こえちゃうんだけど。私、川嶋さんに沢村課長が好きじゃないって言ったことあったかな?」
川嶋さんがどんな反応をするか少し冷ややかな口調で返してみたのだけれど、彼女は一瞬だけ表情を強張らせたものの、すぐにいつも通りの私を心配する後輩を演じた。
「そうじゃなくて、喬木社長からの紹介だと梨乃さんは断れないんじゃないのかなってすごく心配してたんです。だって私の憧れの梨乃さんには好きな人と付き合ってほしいですもん」
「ありがとう。喬木社長からの紹介だからじゃなくて自分の意志で付き合うって決めたから大丈夫だよ。それに沢村課長は本当に素敵な人だったし。でもこれからまだどうなるかわからないし、沢村課長に迷惑がかかっちゃいけないから絶対に内緒にしておいてね。樋口課長にもね」
敢えてわざと強調するように「樋口課長にも」と最後に付け加えておいたので、おそらく川嶋さんの口から哲也さんに伝わるはずだ。これで哲也さんも私と沢村課長のことを知ったら嫌悪感を抱くことだろう。
少しスッキリして笑みを浮かべた私とは反対に、川嶋さんは「わかりました」と頷きつつも、それ以降なんとなくテンションが低くなっていた。
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