2.彼氏の裏切り

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「中途で入社して何もわからない私に色々と教えてくれたでしょ? 梨乃さんだって社長秘書になってそんなに時間が経ってなかったから大変だったと思うのに」 川嶋さんは新卒での入社ではなく、昨年の四月に中途採用で入社してきた。彼女は最初、私がかつて勤務していたお台場のフォルトゥーナホテルに配属されていたけれど、どういうわけか三ヶ月後に本社へと異動になり、秘書室勤務となったのだ。 通常はある程度ホテル業務で経験を積んでからの異動となるので、こういった人事は珍しいのだけれど、もしかしたら川嶋さんも私と同じように秘書検定の資格を取得していたからそれを考慮されたのかもしれない。 「私もね、本社異動になったとき、何もわからなくて慣れるまで本当に大変だったから。川嶋さんと私って年齢もひとつしか違わないし、それに私が以前勤務していたお台場のフォルトゥーナホテルに川嶋さんも勤務していたでしょ? そのあと同じ秘書室勤務になったし。なんだか他人事とは思えなくて」 二年前、私が本社秘書室へ異動になったときは本当に大変だった。入社して三年間ほどホテルのフロントで現場の経験は積んだものの、ホテルと本社では全く勝手が違うし、秘書検定の資格を取得しているとはいえ、実際に秘書として働くには知識以上にあらゆることに対応できる臨機応変さが求められる。先輩秘書の人たちはみんな優しくて丁寧に教えてくれたけれど、何度も同じことを聞いて手を煩わせることはできない。とにかく私は教えてもらったことを必死でメモを取り、先輩の仕事のやり方を観察し、自分なりになんとか習得していった。 そのおかげか、昨年社長秘書に任命されたときには驚きと同時に私に務まるかすごく不安だったけれど、今日までなんとか頑張れている。そんなこともあって、きっと川嶋さんも大変だろうと思い、私が習得した業務内容を共有したのだ。
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