14990人が本棚に入れています
本棚に追加
少しくらい笑顔を向けてくれてもいいのに……。
いつもなら私だけにわかるように優しさを込めた瞳で見つめてくれるのに、今日はライバルの沢村課長と一緒だからなのか、私とは距離を保つスタンスを取るつもりのようだ。せっかく会えたのになんだか寂しい気もするけれど、二人の関係を秘密にしている以上、仕方がない。
とりあえず私も哲也さんと付き合っていることが川嶋さんと沢村課長に気づかれないように、同じ会社の人間として距離を保つことにした。
「何を飲まれますか?」
川嶋さんが可愛らしい無邪気な笑顔で二人に向けてメニューを開く。
私の真正面に座った哲也さんがメニューを覗きこみ、沢村課長はメニューよりも目の前で泳いでいる大きな水槽の魚たちを興味深そうにじっと見つめていた。偶然が重なったとはいえ、この四人でこうしてテーブルを囲っているなんて、なんだか不思議な気分だ。
哲也さんは川嶋さんと沢村課長が付き合っているのを知ってるのかな?
ここに来る途中で沢村課長に聞いたのだろうかとも考えたけれど、この様子だとまだ哲也さんは知らないようだ。
彼氏である沢村課長よりも哲也さんの方が積極的に川嶋さんに話しかけているし、何より川嶋さんの隣に座っているのだ。もし事前に聞かされていたなら川嶋さんの隣に座ることはせず、私の隣に座っただろう。
このあと二人が付き合っていることを知ったら、哲也さんはどんな反応をするかな?
きっとすごく驚いちゃうよね!
目を丸くして驚く哲也さんの姿を想像するだけで可笑しくて、今から笑ってしまいそうだ。
このあとの展開がすごく楽しみになってきた。
そうなると、哲也さんも沢村課長に対抗してここで私との関係を公表する……なんてこともあるかもしれない。
そんなことになったら今度は逆に川嶋さんと沢村課長が驚くはずだ。
な、なんだか急に緊張してきた……。
思わず胸元に手を当ててそわそわしていると、メニューを見ていた川嶋さんが顔を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!