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「うわぁ、ほんとだ。ウミガメがいる!」
驚いて目を見開いていると隣からフッと笑う声が聞こえた。
「あの左の岩の下にはサメがいるみたいだけど」
「えっ、サメですか?」
差している指の方向に視線を移すと、人を襲うような獰猛なサメとはほど遠く、だけど全く可愛くない丸みを帯びた魚が岩の下でじっと潜んでいた。
「あれってサメなんですか? なまずじゃなくて?」
真顔で問い返した私に、沢村課長が「なまず?」と目を瞠ったあとでククッと笑う。
入社して以来初めて面と向かって会話をしたけれど、普段のクールで寡黙な印象からは想像できない表情に、とても貴重なものを見た気持ちになってしまった。
それにしても川嶋さんは彼氏である沢村課長のことを放っておいて気にならないのだろうか。哲也さんとばかり話をして、全く気にする素振りも見せない。
どうして?
久しぶりに哲也さんと会ったから?
川嶋さんは入社してから三ヶ月間ほどお台場のフォルトゥーナホテルに勤務していたので、久しぶりに会った哲也さんと話が盛り上がるのは理解できるけれど、こんなにも放置されると沢村課長がなんだか気の毒に思えてくる。
すると、川嶋さんが突然哲也さんの腕を掴んだ。
「実はね、哲也さんと付き合ってるって梨乃さんだけには話しちゃったの。梨乃さんは信頼できる先輩だし、絶対に私たちのこと口外したりしないから。それに沢村課長も哲也さんの同期だから信頼できる人だよね?」
哲也さんと付き合ってる?
沢村課長?
どうして川嶋さんが哲也さんの腕に触れ、甘えるように哲也さんの顔を見つめているのだろうか。意味がわからず呆然としたまま二人の顔を何度も見比べる。
もしかして川嶋さんの彼氏って……。
沢村課長じゃなくて哲也さんってことなの?
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