2.彼氏の裏切り

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「うん、そうだね。せっかくの機会だし少しだけ飲みに行こっかな」 「ほんとですか! 嬉しい!」 その瞬間、川嶋さんの顔がぱぁっと笑顔になり私の右腕に抱きついてくる。そんな彼女に苦笑しつつ、私は哲也さんへメッセージを送ることを諦めてスマホを鞄の中に入れると、川嶋さんと一緒に飲みに行くことにした。 「梨乃さんと一緒に行きたい素敵なお店があるんです!」 そう言って川嶋さんが連れて来てくれたお店は、プレジールホテルからほど近い隠れ家のようなお洒落なダイニングバーだった。途中、地下へと向かう洞窟のような階段を下りていくときには、どこに連れて行かれるのかと少々怖さを感じてしまったけれど、お店のドアを開けた途端、その怖さを忘れてしまうほどに、目の前には青く煌めく神秘的な空間が広がっていた。 「うわぁぁぁ、すっ、すごーい!!!」 照明が落とされてムードある雰囲気の中、突然現れたとても大きな水槽を見て一気にテンションが上がってしまう。 天井まで到達するような巨大な水槽の中には、見たこともない熱帯魚たちが優雅に泳いでいて、まるで水族館のようだ。そんなお洒落なダイニングバーだけあって、店内は男女問わず多くのお客さんで賑わっていた。 幸運にも水槽の前のテーブル席へと案内され、一瞬にして店内の雰囲気に魅了された私は、高揚した気分のまま席に座った。 「梨乃さん、何を飲まれますか? ビールもカクテルもワインもありますよ」 川嶋さんが慣れた手つきでメニューを開いて私に見せてくれる。本来なら最初は迷わずビールと言いたいところだけれど、今日は疲れを感じているせいか、なんだか甘いカクテルが飲みたい気分だ。それにこのリゾート感満載の雰囲気だと、ビールよりもカクテルの方がより美味しいような気がする。 「うーん、どうしよう。じゃあ、このストロベリーコラーダにしよっかな」 明日も仕事だということも考慮して、アルコール度数の少なそうなカクテル名を口にする。その瞬間、向かい側からメニューを見ていた川嶋さんがすかさず顔を上げた。
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