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気がつくと、見慣れた天井の模様が目の端に見えた。
目の前には真っ白な平面、隅の方に植物だか幾何学模様だかよくわからない柄が見えた。デザインには興味がないので、あれが何なのかさっぱりわからない。
ここはどうやら離宮ではないらしい。元々住んでいた王宮本殿の自室。サピリアス国第一王子シェンブル王太子の婚約者兼公爵令嬢であるエレンは、結婚間近なはずだったが直前になって離宮への移動を余儀なくされた。
エレンは不思議に思う。離宮に移動してからだいぶ経つし、記憶に残っている限り、あの日離宮の最上階から真っ逆さまに地上に落ちたはずだったのに……
体が痛いわけでもなく、死後の世界にも見えない。死後の世界が王宮の寝室だったらがっかりである。
「エレン様、お目覚めになられましたか」
そう言って近づいてきたのは、侍女のメリッサだった。彼女は離宮まで付いてきてくれて、最後までエレンを支えてくれた。そう、離宮の最上階から落ちるあの日のあのときまで――
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