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ああ、まただ。結局ここへたどり着いてしまった。離宮の最上階の景色を眺めながら何とも言えない気持ちになった。
アリーと部屋を出たときは時すでに遅し、殆どの場所に暗部が蔓延っておりあれよあれよという間にここに来てしまった。
「行き止まりね」
「うん……ごめん」
エレンとアリーは互いに見つめ合ったが、二人とも絶望はしていないことがわかり、そっと微笑み合う。
そのときだった。
「アロ様、よくやってくれました」
最上階の入り口の扉から見覚えのある貴族令嬢が登場した。それは紛れもなく、カテリーナだった。
死に戻ってから初めて会うカテリーナ。どうやらアリーと知り合いらしいが、彼の顔を見ても険しい表情のままだった。
「よくここまで彼女をおびき寄せてくれました。約束どおり、あなたを必ずこの王宮から出してあげることを誓いましょう」
何のことを言っているのかよくわからなかった。いや、わからないというよりは信じたくないという気持ちが大きいのかもしれない。アリーを見上げるが、表情は先ほどと変わらない。険しいままだった。
ここまでの間、アリーに守られていたわけではないのか。ここへとおびき寄せられていただけなのだろうか。
必ず守る、と言ったあの言葉は?僕を信じてと言ったあの言葉は?急に全てが白々しく思えてくる。
全てはエレンを、王宮の最上階に連れてくるためだったのだ。自分の想像が独りよがりかもしれないと、離れたところに立つメリッサに目を向けるが、彼女も顔面は真っ青だった。きっと同じことを考えている。
王族しか知らない隠し部屋が見つかったことも、カテリーナが突然現れたことも、全て仕組まれたことだった。シェンブルが助けに来ると言ったことも、きっと全て嘘なのだろう。
アリーが耳元で悪魔のように囁く。
「エレン、惑わされないで。僕を信じて。最後まで信じてくれたらわかるから」
「……最後までって、どういうこと?」
「今は、言えないんだ」
「それで信じろと?」
「……今はそれしか言えない」
「信じられるわけないじゃない!」
エレンの声は怒気が帯びる。
「今は本当にこれしか言えないんだ」
「最後までって、私が死ぬときまでってことでしょう?」
「違う!」
「嘘よ、わかっているの。あそこの柵が壊れているんでしょう?違う?」
アリーの眼孔がゆっくりと開かれるのが、スローモーションで花が咲くように見えた。
ほうら、やっぱり。やり直しても何も変わっていない。ここで殺されるのだ、とエレンは確信を得る。あのとき離宮から落ちたのは事故で、自殺で、自滅だったわけなのだが、全て仕組まれた罠だったのだ。
「柵が壊れてるって……何でそんなこと知ってるの?」
アリーの質問にエレンは答えなかった。
「アロ様、もう大丈夫です。エレン嬢をこちらに引き渡して下さい」
アリーは承諾も否定もしなかった。
「わかったわ、アリー。全てがわかった。あなたとカテリーナ様で仕組んだことだったのでしょう。二人とも私の存在が邪魔だったのね」
エレンは一歩一歩ゆっくりと、二人を見つめたまま後退りする。
「エレン、それ以上後ろに下がってはダメだ」
アリーの言葉も、今のエレンには少しも届かない。
「止めても無駄よ。私をカテリーナ様に差し出す気でしょうから」
「違う。違うからもう少し待ってくれ」
「待てないわ。私はここで死ぬわけにはいかない。捕まるつもりもない!」
「違う、その後ろはダメなんだ!」
いきなりアリーが駆け寄ってきたため、エレンは捕まらないためにも振り払おうと揉み合いになった。まさか今回はシェンブルではなく、アリーと言い争いになるなんて。ここまで揉み合いになるとは予想だにしていなかった。
エレンはあの日のことを思い出していた。あのときも言い争いをしなければ、あんなことにはならなかったのかもしれない。そして今も同じ状況。何で同じことを繰り返してしまうのだろう。
「エレン、落ち着いて!悪いようにはしないから。絶対約束は守る。君を守ってみせるから!」
「イヤッ、離して!」
思い切りアリーを突き飛ばすと、行きたくもないのに柵の方へと向かってしまう。だが今回は大丈夫。後ろの柵は、死に戻る前の位置とは全然違っていた。安全な柵だった。
「エレン、止まるんだ。それ以上は……」
そう言われたときにはもうエレンは柵に触れていた。そしていつか見たように、柵は簡単に地上へと吸い込まれていく。
「嘘!?嘘でしょ。だって、前はこの場所ではなかったはず……」
エレンはいつかのように地上を見下ろし、そしてまたバランスを崩す。
「エレン!!」
ものすごい力でエレンの左腕が何者かに引っ張られ、地面に倒れ込んだ。幸い最上階から落ちたわけではない。アリーに引っ張られたおかげで、最上階の地面に強く体を打ち付けるくらいで済んだのだ。
しかしその代償は大きい。アリーが柵のなくなった場所から落下する姿が、はっきりとエレンの目に映った。
「アリ……アリーッ!!」
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