どうやら自殺(自滅)したようなので、死に戻ったなら王太子と婚約破棄したい

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   * 「カテリーナ、何をしているんだ」  聞き覚えのある声はシェンブルだった。 「シェ、シェンブル様がなぜここに」  カテリーナの怯える声もほとんどエレンの耳には届いていなかった。 「アリー、アリー、アリー…………」  這うようにしてやっとのことで、柵の場所までたどり着いた。  いつのまにか、周りの暗部の人間たちは王宮の騎士団に取り押さえれていた。カテリーナはジュードに取り抑えられ、身動きさえ取れなくなっている。  騎士団の中から一人の男性が前に出てくる。シェンブルだった。 「アロから急いで離宮に来てほしいと連絡があったんだ。緊急事態だから騎士団を連れてきてほしいと。何とか間に合っただろうか」 「……アリーがですか?」  地面と向き合ったままエレンは尋ねた。 「ああ」 「アリーはシェンブル様に本当に連絡していたのですね?」 「ああ。特殊な方法で書簡が届いた。時間がないから自分は先に行くとも書かれていた」  エレンの顔が真っ青になる。 「ごめんなさい、わた……私、ごめんなさい……アリーはもう…………」  エレンは涙を流しながら、アリーの落ちた場所、地上を見下ろした。しかし、アリーの遺体どころか、姿も形も見えない。 「アリー?どこなのアリー」 「アロがどうしたんだい?」  シェンブルが心配そうにエレンを見つめる。弟の安否より、彼女の様子を気にしているようだった。 「アリーが落ちたのです。ここから地上に真っ逆さまに……でも遺体がなくて」  動揺したエレンはわけがわからくなる。まさか、落ちる前に自分のように転生したのではないかという考えが頭をよぎった。 「嘘、まさか……」  驚きのあまり涙が止まる。 「そんな、もう一度私みたいな人生をアリーが?イヤだわ、そんなの。アリー、ごめんなさい、私のせいで、ごめんなさい。シェンブル様ごめんなさい。私のせいで大切な弟君を……ごめんなさい、ごめんなさい」  泣き崩れるエレンを、シェンブルは黙って抱き寄せた。温かいはずの彼の腕の中も、今はひんやりとして寒気がする。 「エ……レーン」  気のせいだろうか。アリーのようなの声が遠くから聞こえた。幻聴だと思った。 「アリー、ごめんなさい……ごめんなさい」 「エレーン!」  今度ははっきりと聞こえた。アリーの声だった。 「こっちだよ!下を見て、すぐ下だよ!」  もう一度そんな声が聞こえて、シェンブルから体を離し、急いですぐ下をのぞき込むとアリーの顔がひょっこりと浮かんで見えた。 「実はここに足場があるんだよ!すぐ下の階にね」  アリーはのけぞるようにエレンを見上げている。 「この離宮は僕の庭だって言っただろ?柵はもちろん、柵が落ちた後のことも考えて色々仕掛けを作ってたんだ。まあ、作った人にしか利用はできないけどね」  アリーはいたずらっ子のように笑ってみせた。 「アリーが作ったの……?」 「そうだよ、ごめんね……これを作ったら王宮を出してやると言われたんだ。だから僕はどうしてもここを出たくて、これを作って君を殺そうと……軽蔑するだろ?でも信じてほしい。それは君と出会う前までの話で、出会ってからはそんなこと思ったこともない。君が死んでほしいなんて、一度も嘘でも思ったことはないんだ!」 「もういいの。よかった、よかったわ、アリー……」  エレンはそのまま地面にへなへなと座り込んだ。 「ちょ、そこから動かないでよ!今行くから、今落ちたら助けられないからね、絶対動かないでね!」  気がつくと、息の上がったアリーが離宮を上ってきて側にいた。 「怖がらせてごめんね、絶対に守るって言ったでしょ?」 「ごめん…信じられなくて、最後まで信じられなくてごめんなさい。あなたがカテリーナとグルだと思ったの。嵌められたと思ったの」  エレンの瞳からは再び雫が溢れ出した。 「仕方ないよ。僕だって最初はそのつもりだったんだから。僕の方こそごめん。この柵を作ったときは、君がいなくなれば僕もここから出られると思ったんだ……本当にごめん。自分のことしか考えてなくてごめん。だけどこれだけは言える。君が生きててよかった。落ちなくてよかった」  アロはふんわりとエレンを抱き寄せると、彼女は彼の温かい胸の中で泣きじゃくった。 「よかった、アリーが生きていて本当に……」  アリーの胸の中にいたら、もう何でもよくなった。殺されそうになったことも、遥か昔、離宮の最上階から落ちたことも、全てが夢の中の出来事のように思えた。  アリーは私を殺そうとしていたのかもしれないけれど、命をかけて守ってくれた。シェンブルが来るのがあと少し遅ければ、アリーも死ぬことになっていたかもしれないのに。  これでたぶん、運命を少しは変えられたはずだとエレンは思った。    もう二度と死なない。アリーとこの世界線を生き抜いてみせる。  エレンはアリーの腕に抱かれながら、あまりの心地よさに少しずつ意識が遠のいていった。 (エレン篇·完)
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