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エレンはベッドに横たわったまま尋ねる。毛布を軽くめくって見るに、怪我はなさそうだったがなぜか全身がだるかった。
「私はいつ、離宮から王宮本殿に戻ってきたのかしら」
「……恐れ入りますが、ずっと本殿にございます。何か夢でもご覧になったのでしょうか」
「夢?夢といえば、離宮の最上階から落ちてよく生きていられたわね。頭も痛くないし、体のどこも痛くないし、よっぽど軽傷だったのかしら」
メリッサは深く顔をしかめている。
「離宮の最上階から落ちれば即死ですよ。まだ寝ぼけていらっしゃるのですか」
エレンは溜息をついた。
「違うわ」
「では、いつ落ちたというのですか」
「いつ……そういえば、今は何日?」
「ソル暦六四五年五月十日でございます」
エレンは体を強ばらせた。ソル暦六百四十五年?まさか……離宮に行く前に時が舞い戻っている?エレンが離宮の最上階から落ちたのは六四六年。つまり約一年後の話だった。
やはりここは死後の世界なのだろうか。いや、死後の世界にメリッサがいるのはおかしい。メリッサまで死んだことになる。あの日落ちたのは自分一人だったはず……エレンは頭をフル回転させて考えた。
急に一年も時が戻ったということだろうか。メリッサの言うとおりあの高さでは即死である。一度死んだ後でここにいるとしたらどうだろう。俗に言う死に戻り、というものである。
落ちきる前に時が戻ったなら死にかけ戻り、とも言える。そこははっきりしない。どう思い出しても記憶にないのだ。
「ちなみに、今も私はシェンブル様の婚約者よね?」
「もちろんでございます。幼いころからそうであったように現在も。もしやエレン様、本当にどこか、頭やら体やらを打ったのでございますか?疑って申し訳ありませんでした。お医者様をお呼びしましょう」
メリッサの謝罪は本物で、先ほどまでとは打って変わってたいそう心配そうにしていた。
「いいのいいの。そんなたいしたことじゃないから、医者を呼ぶ必要などないわ」
問題は現在も王太子シェンブルの婚約者という事実。これが本当に死に戻り(死にかけ戻り)であるならば、私はじきに離宮へ追いやられて、最上階から自分で落ちて死ぬことになる。
それだけは絶対に防がなければいけない。そもそも、シェンブルの婚約者でなければこんなことにはなっていなかったはずなのだから――
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