どうやら自殺(自滅)したようなので、死に戻ったなら王太子と婚約破棄したい

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   *  エレンは離宮のことが気になったが、正直まだ近づくのも怖い。自ら落ちておいてこう言うのも難だが、別に死ぬつもりはなかったのだ。シェーブルがカテリーナを選ぶというのならば、さっさと婚約破棄してもらって王宮から抜け出したかった。  久しぶりに出歩きたくなり、いつもの人気のない図書館裏へと向かう。死に戻る前から、図書館に行くついでによく寄り道した場所だった。そこならば、侍女のメリッサを引き連れなくても出歩くことが許されたという、数少ない場所であるのが理由でもある。  図書館裏にちょっとした広場があり木々が生い茂っていた。その中に人目につきにくい木陰があり、そこでよく本を読んでいたものだ。  だが今日ほど驚いたことはない。何とその場所に先客がいたのだ。そこで人に出会ったのは、死ぬ前も今も初めてのことだった。  遠くからでもよく映える金髪の男性が寝転がっていた。年齢はそう変わらないように見える。 「もしかして君もここがお気に入り?」  エレンの姿を見つけると、屈託のない笑顔を向けてきた。初めてしゃべるとは思えないくらい、気さくで軽やかな空気を纏っていた。さらっとしているのにイヤな感じは一切しない。 「私の隠れ家です。申し訳ありません。まさか私以外に人がいるとは思わず、動揺して立ち尽くしておりました」  木陰に寝転がる彼は、ずいぶん気品のある格好をしていた。王族とも違うし、用事でやってきたどこかの貴族であろうか。 「僕はアリーといいます。仕事がイヤになるとよくここに来るんですよ。しばらくサボれるでしょう?」 「確かに」  エレンは声をあげて笑った。死に戻る前には出会ったことのない彼。新な人物に会えるとは思っていなかったので、少し新鮮な気持ちになれた。 「私はエレンといいます。どうぞこの隠れ家ではエレンとお呼び下さい」 「それはいいですね。僕もこの隠れ家ではアリーと呼んで下さい」  アリーはエレン以上に物知りで賢く、話していてとても楽しかった。ここ以外で会ったことがないので、普段は何をしているのかは全く知らなかったが、それでもいいと思えた。  ある日アリーはこんなことを言っていた。 「鳥になりたいな」 「どういう意味ですか?空を飛びたいってことでしょうか」  アリーはケラケラ笑った。碧い瞳がキラキラと輝いている。 「半分正解で半分間違ってるかな。空を飛びたいけど空を飛ぶことが目的ではない。もうわかっているかと思うけど、僕っていつもここにしかいないでしょ?だからもっと違う遠くへ行ってみたいんだ」 「遠くへ行けない理由がおありですか。貴族なら私よりは自由がありそうだけれど……家業を継がないといけないのでしょうか。それならば旅行で遠出はいかがでしょう」  アリーは困ったように眉を寄せた。 「んー、そうだね。長男ではないけど家を継ぐ可能性は捨てきれないかな。もし旅行するなら一緒に来てくれる?海が見える街に行きたいんだ」 「もちろん!でも一年後になりますが……」 「一年後?」 「はい。一年を過ぎれば全てが終わると思いますので」 「全てが終わるって……何かが変わるってこと?」 「そうです。少なくとも私はもうここにはいないでしょう。王宮とは関係のない場所で、一人ひっそりと暮らしていると思います」  エレンがにっこりと微笑むと、アリーは首を傾げた。  そう、一年以内に婚約破棄をしてここを出て行くつもりなのだから。
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