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「メリッサ、大変なことが起きたわ」
「何でございましょう」
丁寧で静かな言葉づかいのわりに、目は恐ろしいほどに煌やいていた。それが彼女の何かを期待するときの合図。エレンはもう慣れたものだった。
「何だと思う?当たったら好きなものをあげる」
「そんな恐れ多いことはけっこうでございます!」
「じゃあ何もいらないの?」
「何もいりません。ただ、エレン様のファングッズを作る許可さえいただければ……」
エレンの氷のような視線がメリッサの額を貫くが、こちらも慣れたもので、むしろ歓びにうち震えているようだった。
「……まあ、いいわ。二つのうち一つでも当たったら許可しましょう」
「ありがとうございます!何かヒントはございますか?」
「んー……」
「あ、わかりました!シェンブル王子にデートに誘われて身分を隠して町のお祭りに繰り出すことになったが、町娘の格好がわからないし、一人で準備ができない。お願い、メリッサ、何か見立ててくれないかしら?ってことですね?オーケー、大丈夫です。エレン様にお似合いの服をすぐにご準備いたしますし、髪型はそうですねぇ……」
「いやいや、準備しなくていいから」
エレンはメリッサの早口に吹き出していた。
「間違っていましたか?」
「間違いだらけね」
「それはおかしいですねぇ。こういうときはそういうイベントが起こるものなのですが」
こういうときとはどういうときだろう、と思いながら話を続ける。
「デートには誘われていないし、町娘の格好をする予定もないわ。ヒントはそうねぇ、シェンブル王子に関してと、それ以外のある人物に関して、というところかしら」
「それって本当にヒントですか?」
「ものすごいヒントよ」
訝しみながらもメリッサはゆっくりと答えた。
「では、こんなのはどうでしょうか。いつも部屋に引きこもっていた第二王子アロ様と偶然知り合いになり、あれ?この人初めて会ったけどめちゃめちゃかっこいいぞ?何で今まで会えなかったんだろう。シェンブル様よりかっこいい、シェンブル様より好きかも!?きゃー、どうしよう、好きになっちゃった!という浮気心とか?」
エレンは心底驚いた。こんなに早くアロ王子の名前が出てくるとは思わなかったからだ。
「人物は正解ね。内容は全く違うけど、アロ王子の名前が出てきたことだけでも感心する」
「これは当たったことになりますか?」
「ならないけれど、そうね、ファングッズでアクリルキーホルダーくらい作ってもいいわよ?」
メリッサはガッツポーズをしている。
「アクキーありがとうございます!……ラバーキーホルダーもいいですか?」
エレンの氷柱のような視線が、メリッサのガッツポーズの手を貫く。
「わ、わかりました。アクリルキーホルダーだけで大丈夫です」
苦笑するメリッサを見て、エレンは声を出して笑った。こんな平和な日々が続けばいいが、一体どこから魔の手が伸びてくるのだろうか。
「残念なお知らせがあるのだけれど」
「何でしょう?」
「シェンブル様との婚約破棄は難しそう」
「それはそうでしょうね。あんなに愛されているんですもの。そんなに婚約破棄されたいのですか?」
「誰だって陰謀には巻き込まれたくないでしょ?」
「いん……ぼう?」
メリッサは眉を寄せて、んー……と唸っていた。
なぜシェンブル王子にここまで愛されているのか、死に戻る前はそんなことなかったはずなのに……エレンは大きなため息をついた。
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