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なぜここにアリーが?そう疑問に思ったが、助けてもらったことに安堵するエレン。見慣れた顔を見て安心する。
「安心するのはまだ早いよ。こいつらはまだたくさん隠れているからね」
剣を振り上げ、エレンを守るように前に立つアリーは、ずいぶん男らしく見えた。いつもの柔らかい雰囲気は皆無で、勇敢な獅子のようだ。
「ここだと皆殺しにされてしまう。離宮に入ろう」
「離宮!?」
それだけは避けたい事象だった。
「離宮は……だって、離宮は追ってこられたら逃げ場がないわ」
「エレン様、今はそのようなことを言っている場合ではありません!」
メリッサが遮るようにして反論する。
「エレンの気持ちはわかる。でも、僕に任せて。離宮に住んでいたことがあるんだ。ここは庭同然、僕より知っている人はいないから」
離宮に住んでいた?初めて聞く話だった。
「お願い!時間がない。僕を信じてくれ。絶対に守るから」
アリーの真っ直ぐな瞳を見ていると、否とは言えなかった。
アリーの手に引かれ、離宮に足を踏み込む。エレンが死んだその場所に……その後にメリッサも続いた。
離宮の中は記憶と全く変わっていない。奥に入れば入るほど胸の鼓動が速く深く刻まれた。
「こっちだ」
確かにエレンの知らない道を案内するアリー。隠し通路があったが、アリーの行動が速すぎてどうやってその道を導き出したかもわからなかった。もう一度一人で行け、と言われても到底無理な話だろう。
「王族だけしか知らない道なんだ。今見たことは全部内緒だからね」
アリーはふんわりと微笑むが、内緒も何もどうやったのか全くわからなかった。
「もう忘れてしまったから大丈夫よ」
「よかった。この先に隠し部屋があるんだ。小さいころ、僕が一人きりになりたいときによく籠もっていた部屋。助けが来るまでそこで待とう」
どうして助けが来るとわかっているのだろうか。エレンは不思議に思った。
「なぜ助けが来るとわかるの?」
「僕が呼んだからさ」
アリーは片目でウィンクした。
部屋の中は、とても王族が暮らすようなものではなかったが、子どもが隠れ家にするにはちょうどいい趣きがあった。
「どうして私が襲われるってわかったの?そもそもなぜアリーがいたのかわからなくて驚いたのよ?」
「そりゃあそうだろうね。僕も離宮なんか行きたくなかったし。でも君を見かけたからさ」
アリーはなぜか、少しバツの悪そうな顔をした。
「私を?」
「うん。エレンは図書館か図書館裏くらいしか出かけないだろ?それなのに全然違う方向に行くから、どうしたんだろうって不思議に思ったんだ」
「なるほど」
「珍しく侍女も連れていたし」
アリーがにっと笑うと、エレンにも自然と笑顔があふれ、扉の前に見張りのように立っているメリッサに目を向ける。彼女も微笑み返してくれた。
「基本的にメリッサはどこでも一緒なのよ。唯一、図書館だけは一人を許されていたから、毎日通っていたっていうだけの話なの」
「そうなんだね」
エレンは頷く。
「どこに行くか気になって後をつけたというところかしら?」
「その答えは……ノー、だね」
アリーの顔に陰りが見えた。
「じゃあ……なぜ?」
「ある異変に気がついたんだ」
「異変?」
「ああ。君の後ろをつける輩がいた。暗部で間違いないと思ったから、すぐに兄上に手紙を送ったんだ。バレないような方法でね」
シェンブルがこの状況を知っているのだと思うと、あまりいい気はしなかった。死に戻ってからは好意しか感じられなかったが、死に戻る前に彼の目の前で離宮の最上階から落下した記憶は、決して忘れられるものではなかったからだ。
また彼の前で自滅する可能性が出てきてしまった。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないわ……」
「ごめんね。僕だけではどうすることもできなかったんだ。暗部っていうのは最強の実力者たちが揃った精鋭部隊で、兄上の近衛騎士団しかくらいしか相手にならない。僕の周りにはそういうのほとんどないから……」
アリーは力なく笑った。
「ごめんなさい、違うの。あなたを責めているわけじゃないわ。ここまで連れ出してくれて、一緒に逃げてくれて本当に感謝してる。シェンブルたちを一緒に待ちま……」
「しっ!!」
アリーの顔が、これまでにない深刻な表情に変わる。
「おかしいな……」
「何が?」
「音が聞こえる」
「シェンブル……たち?」
「そうかなと思ったんだけど、離れた方がよさそうだな」
「どういうこと?」
じっとエレンの顔を見つめるアリー。
「……足音を消しながら近づいて来てる」
エレンは、血の気が一気に引くのがわかった。
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