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にぎやかな食宅
12時前に、勘解由小路はダイニングに向かった。
もう、ダイニングでは、真琴が緑にご飯をあげていた。
「降魔さん降魔さん。緑くんが、ほら、もう離乳食を食べてましゅ。アーン。おうどんでしゅよ?」
「アム。アム。パー。パああああああ!」
「おう緑ご機嫌だな?よしよし♡」
息子の額にキスの嵐を見舞っていた。
「ああ、双子も今日はここか。久しぶりに勢ぞろいだなあ」
「引っ越しのドタバタで、簡単に外に出られるものか」
「父さん、今日はみんなでうどんを食べようって。緑くんは、同じものを食べたいみたいだし」
「だいぶ、自我が育ってきたなあ。緑は。おお、きつねうどんだな」
しばし、フーフータイムが続いていた。
「なあみんな、ところで、莉里の芸能界デビューが決まりそうでな?ああ流紫降、そういえば、今歌舞伎の稽古は?」
「今揚巻をやってるよ?」
「ああそうかあ。で、みんなはどう思う?」
「広報課が絡んだ案件ですね?ならば、いいのではないでしょうか?」
「うん。まあ、スポンサーがスポンサーだからなあ」
警察庁のスポンサーが企業。という捩じれた現象の所為だった。
「クティーラは、どう思うのよさ?」
幼児めいたメイドが、厳かに腰を折って言った。
「莉里がおれば、何を案ずることがあろう。眩いスポットライトを浴びて、莉里は輝くのじゃ。であろう?ジュエリー」
「うん!エボニーも頑張るらしいのよさ!」
「アイドル?はっ、下々に諂われていい気になるのがあんたでしょ?精々、ぷいきゃーパンツ盗撮されんよう気を付けろ」
「相変わらず、姉ちゃんひねてんのよさ。姉ちゃんのダセえシルクのパンツ。喪女喪女した残念女の行く末を、ステージ上から見守るしかないのよさ」
どん!机をぶっ叩く音が響いた。拳は、半ば変異しかけている。
「碧ちゃん、落ち着きなよ。僕はいいと思うな?莉里ちゃん、応援しているよ?」
「ああ、まあなあ。莉里がアイドルしてる脇で、流紫降は髭の意休と寝てるか。狸女郎狐女郎め」
「誰が言ってるの?言い手は?――耳で聞いたと言われても、エエ?!言うた人があろう!どこで聞きゃんした?!」
突如、舞台スイッチが入っていた。助六の、幻の濡れ場のシーンだった。
女のような髪まで使って、流紫降は花魁に化けていた。
「言い手か。まあない。が、揚巻は花魁だ。多分、意休は揚巻とやっている。でもまあ、お前が望めば、寄るがどうする?」
「何のかのと・・・・エエ憎らしい!――ああうん。そうか。花魁は、簡単にお客を袖には出来ないんだね?それ知っていて、助六に対してとぼけるのか。うん。1つ深まった。ありがとう父さん」
「あああ、兄ちゃんが、どんどん姉ちゃんになってって、正直気味悪いのよさ。女形が憎いのよさ」
「まあそんなこんなで、莉里はデビューだめでたくはあるな。くしくも夏はフェスの季節だ。ちょうど、月末の野外フェスに、イギリスの気鋭シンガー、アニス・フィッツジェラルドが登場するしな。アニスの歌声は6キロ先まで聞こえるらしいし。まあ、何考えてんだろうな?あいつ等は」
よく解らないことを言って、勘解由小路はうどんを啜っていた。
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