移り、映る

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 ある街に孤独を抱えた少年がいた。  彼は考えなくとも生活を送るうえで影響のない疑問を考えずにいられなかった。  人生とは、愛とは、平等とは、幸福とは。実体がなく形の定まらない事柄が彼の目にはとても尊く映った。  しかしそれを口にしたところで誰も少年の言葉に耳を貸さなかった。彼の話は周囲の者たちにとって不要な話でしかなかったのだ。  いつからか彼は互いを理解し合える存在を求めるようになる。共に答えのない問いに()かれ、互いの思考を共有し、互いの思考を尊重し、ひとつの回答を探し求めるそんな究極ともいえる理解者の存在を夢想(むそう)した。  「自分にとって唯一無二の存在が世界のどこかにいるはずだ」その思いは日に日に強くなっていく。  そしてある日「僕が探している相手も僕のことを探しているんじゃないか」という妄想が彼を支配した。  それは少年が旅に出るのに十分な理由だった。
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