解散を発表した夜

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*  マネージャーの生田さんの車に押し込められるように乗り込み、窓越しに流れていく景色を見る。  16歳で東京に来て以来、都内のあちこちを何度も引っ越してきた。スタジオに向かう景色はもう何度見てきたんだろう。  最初は、夏葉と玲奈と一緒のマンションに住んでいた。  両隣に夏葉と玲奈の部屋があって、それぞれの部屋に戻るとき以外はほとんどいつも三人で一緒にいた。三人とも地方から東京へ引っ越してきて、他に知り合いもいないから、お互いしか頼る相手がいなかった。  部屋に戻ってからはお互いの時間だった。  でも、壁の薄いマンションでは、夏葉の部屋からは大好きなアニメの台詞が聴こえてきたし、玲奈の部屋からはいつもA-MATの曲が大音量で流れていた。間に挟まれた私は、そんな不協和音の中で本を読んで過ごしていた。  東京の高校に転校して、卒業した頃、玲奈も夏葉も引っ越していき、最後に私も出た。進学したり、やりたいことを見つけたり、みんなそれぞれの方向性が出始めた。  それぞれが成長していくこと、それはデビュー前に三人で誓っていたことだから、いつまでも同じ場所にいられないことは自然な流れだった。  それでも私は最初に三人で住んでいたマンションの頃が一番楽しかったと今でも思う。  SNSに迂闊に挙げた写真の背景や、私の瞳に映る景色で、私の住む部屋がバレたりした頃から、一人で生きていくことが怖くなってきた。  でも、応援してくれるファンの人たちや、支えてくれるスタッフの人たちや、かつてオーディンションで一緒に戦った仲間たち、そして夏葉と玲奈のことを思うと立ち止まることはできなかった。  見えないものをいっぱい背負って踊り続けるうちに、私は次の目標が何なのかわからなくなり、平穏だけを求めて過ごすようになっていった。  そんな頃、夏葉はダンスでのアメリカ留学を目指すようになり、玲奈は舞台での活躍を目指すことになった。私の目標は失われたままだったけれど、『新たな方向性を見出した』という理由で、解散することを発表した。  なぜかメディアでの表現は『方向性の違い』という表記になっていたけれど。
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