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解散の発表がされた夜、私たち三人はファミレスを訪れた。デビュー前から何度も通ったお店だった。
楽しかったことも、つらかったことも、これから目指すことも、何でも話してきた場所だった。
「意外にバレないもんだね」
玲奈が言った。私は頷く。
周囲にお客さんは何組もいるけれど、誰も私たち三人に興味を示さない。わざわざサングラスだのマスクだのをしなくても。
「そりゃあウチらは毎日、高級ホテルのスイートで乱痴気騒ぎをしてるって思われてるからね。ファミレスにいるなんて思わないんと違う?」
夏葉の言葉に玲奈と私は苦笑する。
SNSで勝手に作られたフェイクニュースで、私たちが高級ホテルのスイートルームでシャンパンタワーを作って、何かのお酒をばらまいてる写真が出たことがあった。そのお酒のボトルを持っているのが夏葉になっていた。
「ウチらのコラージュ写真つくるぐらいなら自分の人生を磨けっての」
「あのね、夏葉、そーいうこと言うとまた炎上するから」
「またって私個人はしてないかんな。玲奈の発言のときのほうがやばかったやん」
「はいぃ?」
「あーやめやめ。私たち三人で争ってどうする!」
私が二人の仲裁に入る。
「こんなとこ見られたらまた炎上しちゃうよ」
「だったら玲奈がウチを殴ってる写真とか用意してアップロードしちゃおうか」
「ひど。私、殴ったことなんてないし。なんで夏葉だけ被害者ぶるかなぁ」
私の心配をよそに二人は笑いながら冗談にならないような冗談を話していた。
「でもさぁ、変な感じだよねぇ」
夏葉が左ひじをテーブルに乗せて、頬杖をつきながら店内を見ながら言った。
「いまSNS開いたら、ウチらがバズってるわけでしょ? トレンドに「Reen-Hite-Ink」「解散」って入っちゃってるわけやん?」
「公式ページの発表動画が1時間で10万回再生とかいったみたいだよ」
玲奈が言った。
「デビュー曲のときの動画なんて一週間経っても全っ然、再生数伸びなくて、伸ばすための配信やったりとか苦労してたんだけどなぁ」
「あの頃は、私たちの友達とか家族が大半何回も観てくれてやっと再生数が1万回行って喜んだりしたのにね」
「でも、10万行ったり、バズったりなのに、解散理由を不仲説とか書いてる人が更にバズったりししているのに、このお店にいる人たちはウチらに気づきもしない。女三人でメシ食ってるぐらいにしか思われないんだよねぇ」
私も夏葉のようにお店の中を見渡してみた。家族連れやカップル、友達同士、いろんなお客さんはいるけれど、誰もこちらの席を気にしている様子はなかった。
「いろんな人の目を気にしてきたけど、そうでもなかったのかな……」
私の呟きに二人はすぐには何も言わなかった。
「でも、三人で頑張ってきたことが消えるわけじゃないから」
そう言ってくれた夏葉の言葉が嬉しかった。
それから私たちはデビュー前からのことを延々と語り続けた。気づいたら窓の向こうは蒼い色に染まり始めていた。
もう朝が近い。
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