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朝から身体が重かったけれど、動かないわけにはいかない。
見えない頭痛がつきまとう顔を鏡に映し、「ひどい顔だ」と自分に向かって呟きながらも準備をする。
着替えをして、最低限にメイクをして、スマホを2つカバンに入れる。生田さんの車が到着するまであと何分かな。
ワイヤレスイヤホンをスマホとBluetoothで繋ぎ、曲を再生する。目深に帽子を被って玄関に向かう。
並べてなかった靴を並べてから、ため息を一つ吐き出す。
気が重いのは、新曲がミディアム調のせいだけじゃない気がする。
でも、私を待っている人がいるんだ。頑張らなきゃ。
そう思って玄関のドアを開いた。
変な感覚があった。ドアの向こうに何かがあってそれを押しているような感覚。
まさか。
まだ引っ越してきたばっかりなのに。
引っ越してから2週間しか経っていないのに。
もう、どこかの誰かにバレちゃったんだろうか。
そーっとドアの向こうに顔だけを出して、ドアに引っかかるものは何なのかを見てみる。
ダンボールの箱が置かれていた。バスケットボールは入らなそうだが、サッカーボールは入りそうなぐらいだろうか。そこまで重くないような気もした。
私は通路を左右に見渡しながら身体も出す。誰も歩いていないようだった。
また過激なファンのプレゼントだろうか。それとも――、
もう一つの可能性を頭の中で言語化する前に、カバンの中のスマホが鳴った。取り出してみると仕事用のスマホのほうが鳴っていた。
ディスプレイを見ると生田さんからだった。
「はい」
『あ、夕音ちゃん? いま下についたよ』
電話の向こうで、私が聴いていた曲と同じメロディーが聴こえた。
「生田さぁん……」
ちょっと泣きそうだ。
『どうしたの? 体調悪そうだけど……。何かあった?』
「……謎のダンボールが玄関のドアの向こうにあって」
『絶対に開けないで! 絶対と言ったら絶対!』
耳を通りぬけていくような声で生田さんは叫んだ。
わかってます、そんなのわかってます。
たとえプレゼントでも、そうじゃなくても、正体不明の宅配物を私は開けるわけにはいかない。
なんでこんな思いをしながら生きていかなきゃいけないんだろうなぁ。
私は、ただ踊っていたいだけなのに。
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