三_スキ

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無事に物語も書き終え、貸出手続きも終えた彼女を外まで送り届ける。門の前には彼女の母が待っていた。隣を歩くルークが全く動じてなかったので、彼が呼んだのだろう。驚きながらも母に抱きしめられ、嬉しそうにする彼女を見守る。その様子を見てようやく彼女はきっと大丈夫だと安心することができて、思わず息をついた。 他人の心に触れることが、後押しをすることが良い結果を生み出すのかどうかは誰にも分からない。それはきっとネガイノ書だって分からないだろう。 まだ気を抜いてはいけないと持ち直し、頭を下げて手を繋いで帰っていく二人を見えなくなるまで見送る。 見えなくなると同時に、ルークが僕にかなりの強さで尻尾を叩きつける。彼は業務が一段落つくと、必ずと言っていいほどこうやって尻尾を叩きつける。何か用があるのか聞いたことがあるが、 「え、ないですけど。」 と真顔で否定されて以来放っておいている。力を弱める気がないそうで、かなり痛い。ただし怪我をするほどではなく、考え事をして思考がこちらにない僕を引き戻せる程度の力加減だ。 彼なりの優しさかもしれないとは思いつつも、それが確かかどうかを確認するすべは持っていない。何を考えているか確認を取ろうとすると、大抵ははぐらかされるのだ。更に言えば自身の勘違いであれば、彼を嫌な気持ちにさせるかもしれない。それだけは絶対に避けたいので、本日もされるがまま。彼の尻尾を合図に人間の姿に戻る。僕の肩を包む尻尾が妙に暖かくてほっとした。 「片付け、手伝う。」 「その身長じゃ届きませんよ。」 何故か小馬鹿にするように笑われ、顔をしかめる。 「お礼しようと思ったのに。」 素直に伝えると、ルークはゆっくり尻尾を振りながら僕の前を歩き出した。無言を貫いている彼は一切こちらを振り返らない。屋敷に入る頃には、何かまずかったのだろうかと焦り始める。 「片付けくらい俺がやります。」 そう言い残し僕の前から去ろうとする。咄嗟に腕を掴むと、ようやく目が合った。残念ながらすぐに逸らされてしまったが。ムッとするが、講義しようにもなんと言えばよいか分からないので頬を膨らませる。 意外にも腕を振りほどこうとしない彼は、観念したように視線を戻した。ため息をついたので呆れられただけかもしれないが、この際どちらでもよいだろう。 「こういう時くらい休んで下さい。」 そうは言っても、と言いかけた僕にすかさず一言。 「シグ。」 少し威圧が混じった真剣な声で呼ばれてしまえば、それ以上の講義は不可能である。これは彼なりの心配なのだろう。今度は気まずさから僕が目を逸らすと、仕方なく自室へ向かうために足を進めた。 「待ってる。」 去り際に言い残した言葉には、僕から彼への心配の気持ちも含んでいる。察したのであろう彼から、ん。と相槌があったのを確認してホールを出た。 廊下の鏡に映る僕の顔は、何となく赤みがかっていて。窓から差し込む夕日をのせいだと、自身に言い聞かせながらその場から走り去った。
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