四_side.R_アナタノエガオ

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小さい。それが彼女の第一印象だった。 俺の担任に声をかけられて、教卓前に立つ彼女。深すぎて溺れてしまいそうな青い瞳が、俺を捉えた気がした。 「ホシノ図書館、支配人のポラリスです。一ヶ月よろしくお願いします。」 程よく腰を折った丁寧なお辞儀は洗礼されていて、何となく育ちのよさを感じる。 噂の図書館から学内の調査に来たという彼女は人気者だった。明るい笑顔と人を引き付けるセンスのある喋り。小柄さも相まって可愛らしく、皆を虜にしていたと思う。どうやらはじめましてのあの日、やはり目が合っていたようで俺にも話しかけてくる。ただ調査で忙しくしているのか、廊下ですれ違うことの方が回数は多く話す機会は少ない。会話をしたのはせいぜい片手で数えられる程度である。それでも会話をしていく内に、何となく引っかかりを感じた。喋る時にはよく考える様子を見せたり、笑顔がワンテンポ遅かったり。俺の様に自身を閉じこめている気がして、気の所為だとは思いつつも少し気になっていた。 彼女が来て一週間。いつもと変わらずに授業を受けたその日は、調べ物をしていて帰りが遅くなった。夕焼けの内に帰りたいと、担任に見つからないことを祈りながら一階廊下を走る。すると窓の外で人影が動くのが見えた。時間が時間だから気になって、足を止めて確認する。 よく見ると、彼女がプールに足をつけていた。 何だか弱々しくて溶けてしまいそうな気がして、思わず窓の向こうに声をかけた。 「何してるんですか。」 想像よりも大きな声が出て驚く。どうやら焦っていたらしい。落ち着こうとするが、振り返った彼女と目が合うとそんなものは吹っ飛んだ。 貼り付けたような笑顔。 正直、あの明るい様子からは想像つかない表情だった。 「見られちゃった。」 すぐに優しい眼差しに戻る彼女は、見ていて苦しくて痛かった。 「言いません。」 せっかく掴んだ違和感の正体を再び隠されたくなくて、食い気味に言う。驚いた顔をされたが追求はしないつもりらしい。 「ありがとう。」 春の暖かさを詰め込んだように微笑みかけられる。初めて見た無理のない笑顔は、気恥ずかしさはあるものの何だか悪くない気がした。 その日から俺は彼女に引っ付きまわった。最初は戸惑いと不安を混じらせたような微妙な反応をされたが、秘密を人質にして渋々と隣においてもらう。 しかしお互いの性格相性がいいのか、会話をすれば必要以上に言葉を紡がなくとも会話が成立する。話すのが苦手らしい彼女はそれが楽なのか、俺の存在を少しずつ受け入れていった。調査も手伝うと言い張る俺の押しに負けてからは、二人きりの時には明るいフリもしなくなった。すれば俺にちょっかいをかけられるからかもしれないが。 そうやって、一ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
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