〇_ホシノ図書館入門

1/3
前へ
/19ページ
次へ

〇_ホシノ図書館入門

アンティーク調のテーブルセットにライトの暖かな光が反射する、部屋の一角。月明かりは積み上げられた本に遮られ、読書をするには心許ない光量だ。 「ホシノ図書館の支配人“ポラリス”は、小さなフワフワ。彼女はメンダコのような見た目だが、耳を羽ばたかせて空中を移動する。うさぎのような体毛に覆われ、ティータイムが大好き。お菓子をあげると喜ぶが注意が必要。本のあるところで出そうもんなら、見た目と裏腹にとても怖い。」 支給品のベストを身にまとう獣人の部下が、一枚の新聞を読み上げる。ただでさえ立っている、毛並みの良い耳をピクリと動かすと部屋の扉を振り返った。まさに今入ったばかりの僕と、きれいな深緑の目が合う。獣は夜目が利くというが暗くないのだろうか。 「おかえりなさい。フワフワでティータイムの大好きな支配人さん。」 「からかってる。」 間髪入れずに聞くが、部下“ルーク・アマノ”はそっぽを向いた。狼特有の長い尻尾が機嫌良さそうに揺れている。笑いをこらえて口元が緩んでいるのも隠せていない。 これ以上の追求は意味をなさないと諦めて、彼の肩へ降り立つ。定位置の専用クッションは僕を待っていたようで、すぐに積み上げられた大量の本を手際よく本棚へしまい出した。 屋敷には十個の大きな部屋と四個の小さな部屋があり、その殆どが本で埋まっている。 大きな部屋は貸出本を管理する書庫部屋であるが、この小さな部屋の一つは作業部屋で、重要な仕事を担っている。余談だが他の部屋は僕とルークそれぞれの部屋、家事部屋があり、二人でココに暮らしている。 作業部屋は彼が一日の大半使用し、気づけば本人の分かりやすいように仕舞われているようだった。 僕にはその分類がよく分からないので大人しく無言で眺める。 「二日前にココに来た人ですよね。新聞を借りる人なんて珍しいので覚えています。」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加