二_大人ビタ少女

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二_大人ビタ少女

ぽかぽかと程よい温かさ。機嫌よく目覚めた僕は本日、一人の少女の来客を受ける予定だ。 貸出人は大きな分岐や迷いに直面した者が選ばれる。ココは公的機関で、この辺りを統治する国のお抱え魔法使いが作っており細かな仕組みは正直よく分からない。分かっていることといえば、選ばれるのは一人でここを訪れられる十二歳以上の者であること。招待状と呼ばれる日付などを指定したものが、選ばれた者に届くことで貸出人を招いていることくらいだ。 もちろん公的機関であるので国との連携も取っており、貸出人が決まると、情報がすぐさま郵便で送られてくる。送られてくるのは個人情報なのでそこまで多い情報は送られてこず、簡単に調べられる程度の情報である。またこちらも必要に応じて国へ連絡が取ることがある。過去に飢餓に苦しむ人が訪れた際には、その現状を報告し政策の改善を仰いだ。このようにココと国とは密接な関係にあるのだ。 少女が来訪することは数日前から決まっていた。一日に何件もの来客が入ることも珍しくはないので、一件のみというのは国側が時間の係る案件だと判断を下したと考えられる。 歳は十五。国立の中学へ通い、高校受験を控えているそうだ。少女についての資料はかなり少なく、前もって休みを返上し聞き込みなどの調査を行った。真面目で、友人が少なくいつも表情が暗い。学校に潜入した際に多く耳にしたのは、あまり良いものとは言えなかった。それでも学内での成績は優秀だそうで、教師陣からの信頼は厚かった。 使えそうな資料を揃えていると、チャリンとベルの音がした。門へ取り付けているベルは来客を知らせる合図である。しばらくして応対するルークの声が聞こえてきた。 「ようこそおいでくださいました。支配人のポラリスです。」 少女の前にふわりと姿を表す。少々驚かせてしまったのは、できれば御愛嬌だと思ってほしい。長い前髪と黒縁のメガネで顔が隠れる少女は、僕を見ると目をぱちくりさせた。 「はじめ、まして。」 この世界で人型でないものがいるのは珍しくないので、すぐに状況を理解したらしい彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。ルークが応接間へ彼女を案内し、イスに座ってもらう。本日の貸出人は繊細そうなので、彼にはお茶を出したあとは部屋を出てもらった。 「早速ですが、当図書館のルールはご存知ですか?」 緊張しているようで、応接間用の良いお値段がするふかふかのイスに押しつぶされそうだ。 「はい。えと、支配人さんのことも新聞で見ました。」 おどおどと、膝下で抱きかかえる小さなトートバッグから小袋を出す。可愛らしいリボンでラッピングされたそれは、街で人気のお菓子屋さんで購入できる商品だった。中学生が買うにはかなりいい値段がする代物だと記憶している。 「わざわざありがとうございます。よろしければ一緒に食べませんか?」 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする彼女の前に、魔法で皿の上に先程のお菓子を並べてやる。再度進めると、控えめな笑みを浮かべて食べだした。少し緊張が緩んだようで、年相応の幼さが垣間見える。
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