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「じいちゃん、新しいゴムあったで。俺やるわ。」
「おお、今の若いもんは、何でも器用にやりよるな。」
(じいちゃん、それラップの話*した時も言うてた。)
「じいちゃん。パジャマにゴム通すのに若さは関係ないと思うけど、俺は学校の家庭科の授業でなろたことある。」
「そうか。今の若いもんは、ゴムの通し方を習うんか。何でも習いよるな。」
「じいちゃんは、やったことないのん。」
「わいか。ないな。」
「ちょっと待っとってな。今からやるから。」
「おお。浩明、頼むで。」
「じいちゃん、できたで。穿いてみて。きつかったり、緩かったりしたら調節するから言うて。」
「おお。浩明は、何でもできるな。」
「何でもはできひんよ。じいちゃんは、俺と若者を褒めすぎやで。」
「そうか。浩明は、じいちゃんにできんことがぎょうさんできるからな。」
そう言いながら、じいちゃんはジャージを穿いている。
「浩明、ちょうどええわ。わい、今日はこれ着る。」
「そう。良かった。」
「浩明に小遣いやろ。」
「そんなんええよ。俺、別に小遣い目当てでやったんとちゃうもん。」
「ほな、またジュース飲みに行こか。」
「じいちゃん。俺、もうコーヒー飲めるで。酒はまだやけど。」
「そうか。浩明はコーヒーが飲めるのか。」
「飲めるようになってん。試験が終わったら、一緒に香江さんの店に行こ。」
「おお。香江ちゃんの店か。しばらく行ってへんかったな。」
「香江さん」ていうのは、死んだばあちゃんの同級生がやってる喫茶店。
そこで香江さんが、じいちゃんやばあちゃんの若い頃の話を俺にしてくれる。
そして、じいちゃんが、
「おい、香江ちゃん。そん位にしとけよ。」
と照れながら言うのを見ているのも好きだ。
「浩明。試験はいつ終わるんや。」
「明後日やで。終わったら行こな。約束やで。」
「おお。わいは、約束は守るぞ。」
「ははっ。楽しみにしとくわ。」
じいちゃん。俺、あと三年したら、コーヒーだけやなくて一緒に酒が飲めるようになるし、これからもずっと俺がゴム替えるから、伸びても心配せんでええで。
〈おわり〉
*「ラップの話」…『じいちゃんの音楽事情』で、じいちゃんと浩明がラップについて話をする場面がある。
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